4 はしがき訴額の算定から除外するのが実務の一致した扱いである。しかし,未払賃料請求は,本文で詳述するように,民訴法9条2項にいう附帯請求の要件を具備しないので,訴額の合算がなされるべきである。このことは,認定司法書士の簡裁訴訟代理権の限界付けにとっても重要な帰結を生ずる。未払い賃料請求と建物明渡請求の訴額の合計額が140万円を超える場合には,認定司法書士の簡裁訴訟代理権が否定されるという帰結である。 上訴の手数料訴額についても,多くの問題が生じている。上訴の手数料訴額は,上訴人の不服申立ての対象を基礎に算定されなければならない。不服が生じるのは判決が言渡された時であり,上訴は上訴状を提出してするのであるから,不服申立て対象の額の算定基準時は上訴の提起時でなければならない。ところが,事物管轄を定める基準である管轄訴額の算定基準時が訴え提起時であることから(ただし,このことも,現行民訴法は明文規定によって定めているのではない),実務では,上訴の手数料訴額の算定基準時は訴え提起時とされている。判決の言渡しによって生じた不服の額を算定する基準時がそれ以前の訴え提起であるとは一体どういうことであろうか。また,原告の不服と被告の不服は,事件と判決の内容によっては異なることがありうるが,控訴人たる被告の不服の価額を算定するのに,原告の訴え提起時を基準時として算定することが可能なのであろうか。もちろん,上訴の手数料訴額が訴え提起の手数料訴額を上回ることは不合理であるから,上訴の手数料訴額が訴え提起の手数料訴額によって上限を画されることが必要であるが,このことは上訴の手数料訴額算定の基準時が訴え提起時であることを意味するものではない。いずれにせよ,上訴の手数料訴額についても本格的な検討が必要である。 ⑶ 本書は,訴額の算定に関して現在まで生じていると思われる諸問題につき,従来の諸家の研究成果を紹介しつつ,これを基礎に若干の考察を行うものである。従来の見解と著者の見解が一致しない場合にも,従来の見解の内容を明らかにし説明を行っているので,実務に役立てていただけるものと確信する。 叙述にあたっては,これまで訴額について決定的な役割を果たしてこられた実務家諸氏の研究成果を参照させていただいた。また,母法であるドイツ民訴法およびドイツ裁判費用法についての文献およびドイツの裁判所の判例をも参照した。ドイツでは日本と異なり,弁護士費用が訴訟費用に
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