農承
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第1節 人が生きていく中では、食べるという行為が最も重要な行為であることに、異論はないでしょう。では、食物がどこから産出されるのかといえば、そのほとんどが農地から生産されています。農地は、私たち人間の生命の営みを根本から支えているといっても過言ではありません。 その農地を保護するべく制定されたのが農地法です。農地法は、第2次世界大戦後の農地改革の結果を踏まえて、昭和27年に制定されました。制定当初の目的は、「農地の利用関係を調整し、耕作者の地位の安定と国内の農業生産の増大」でした。耕作者の地位を安定させるために農地所有者が、耕作者であるという自作農主義を前提にしつつ、賃貸借をする場合にあっては強い借主保護を打ち出しました。また、効率よく、継続的に耕作できる個人に対しては、農地の権利取得を促進するとともに、逆に該当しない者に対しては、権利取得を認めないように制度設計がなされました。農地の権利移動に規制を課すことは、興味本位での農地取得を防ぐことにつながり、結果として耕作放棄地が出現することを防止すると考えられていました。また、この制約は経営農地が細分化することも防止していました。一定の耕作面積を保持し続けることによって、生産性を維持していこうとしていたわけです。農地法を遵守していれば、農業従事者の地位は向上し、農業生産の増大に伴って、食糧自給率も上昇しているはずでした。 ところが、制定から70年以上を経た今日の農地を取り巻く情勢は、農地法制定の理念とかけ離れた状況になってしまっています。理由はいくつか考えられますが、大別すると2つに集約されます。1つ目は、自作農主義が破綻しているということ。2つ目は、耕作放棄地の出現と拡大です。農第1節 農地の権利変動3■1農地法の制度趣旨農地の権利変動

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