2旧法下の議論32 第2章 セキュリティ・トラスト1)我妻榮『新訂担保物権法(民法講義Ⅲ)』(岩波書店,1968)には,「質権を取得する者,すなわち質権者は,被担保債権の債権者に限る。債権者以外のものが質権だけを有するという関係は,民法では認めない」(128頁),「抵当権を取得する者,すなわち抵当権者は,被担保債権の債権者に限る」と記載されている(227頁)。2)金融法委員会「セキュリティ・トラスティの有効性に関する論点整理」2005年1月14日3)新井誠『信託法[第4版]』(有斐閣,2014)151頁参照2006(平成18)年12月に新信託法が成立する前においては,このような特徴を有するセキュリティ・トラストが,一般的に許容されているかどうかが議論されていた。すなわち,我が国の担保制度においては,担保権者と債権者は一致していることが必要であると理解されてきたからである債務の履行を確保するために,担保権は設定されるのであり,民法342条及び同法369条1項は,質権及び抵当権の内容について,それぞれ,「他の債権者に先立って自己の債権の弁済を受ける権利を有する」(下線筆者)と定めている。この点に関し,担保付社債信託法においては,社債権者のために,受託会社が社債を被担保債権とする担保権を取得して,その保存,実行をする仕組みが採られているが,上記原則の例外として,債権者と担保権者が分離することを許容されていると考えられていた。他方で,債権者が円滑に交代でき,債権の流通の促進につながる担保制度の必要性の高まりを背景に,セキュリティ・トラストという信託の制度を通じて,担保権の実行による回収結果が被担保債権に係る債務の弁済に充てられるという仕組みが確保されていれば,当時の法制下においても,債権者と担保権者を分離することは許容されるという立論がなされていたまた,旧信託法1条は,信託について,「財産権ノ移転其ノ他ノ処分ヲ為シ他人ヲシテ一定ノ目的ニ従ヒ財産ノ管理又ハ処分ヲ為サシムル」と定義していたが,「其ノ他ノ処分」につき担保権の設定を,「財産ノ管理又ハ処分」につき担保権の保存や実行を,それぞれ含むと捉え,民法上の原則の例外と解する余地もあった3)。1)。2)。
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