6_借正
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正当事由による借地契約の終了いまいになり,賃貸人に対し期間満了の際直ちにそのことを知って異議を述べることが容易に期待できず,賃借人もまたその時期にはこれを予期していないような特段の事情がある場合においては,賃貸人が漸く期間満了の時期が到来したと推測して直ちに述べた異議が,訴訟における審理の結果判明した契約成立の時期から起算すると,賃貸借の期間満了後若干の日時を経過した後に述べられたことになるとしても,この異議をもって借地法6条にいう遅滞なく述べられた異議に当ると解すべき余地がある。 原判決の確定するところによれば,本件土地賃貸借契約の成立は数10年以前のことであるが,契約成立を証する書面もなく,契約当初の関係者がほとんど死亡しているなどの事情のため,賃貸人賃借人ともにその始期を明確に知り難い事情にあったこと,賃貸人(被上告人)は,賃借人(上告人A,同B両名の前主C)が地上建物を第三者に貸与して他に転居するに及び,自己使用の必要のため本件賃貸借契約を終わらしめようと意図し,関係者を探索した結果,大正4年9月頃に本件地上の上告人所有建物が建築されその頃本件土地賃貸借契約が成立したものと考えて,昭和30年9月10日賃借人Cの土地使用継続に対し異議を述べたこと,一方賃借人Cにおいても,賃貸借の期間に関心がなく,賃貸人より前記の異議を受ける以前には賃貸人に対し賃貸借更新請求をなしていないというのである。 本訴において,本件賃貸借の成立時期を大正4年9月頃であるとする被上告人の主張に対し,上告人らはこれが大正2年3月頃であると争い,原審は,審理の結果知りえた原判決判示の徴憑事実を総合し,大正3年春頃本件土地の賃貸借契約が成立したものと推認したのであるが,原判決の判示した右時期から起算すると,本件土地の賃貸借は途中1回更新されて昭和29年春頃期間満了となり,従って,前記賃貸人の異議は期間満了より約1年半を経過してなされたことになる。しかしながら,以上のような特段の事情の下においては,これをもって借地法6条にいう遅滞なく述べられた異議に当るものと解しても同法の趣旨に反するものではない。 つぎに,所論は,被上告人が賃貸借期間満了後である昭和29年度及び昭和30年度の賃料名義の金員を賃借人より受領しているから,被上告人は異議権を放棄したものであるか,もしくはこれにより異議権を喪失したと解すべきであると主張する。 しかしながら,原判決は,被上告人が賃貸借期間満了の時期を昭和30年9月頃であると解していたことその他原判決判示の事情の下においては,右事実をもって直ちに被上告人の異議権放棄の意思を推認することができないと認定したものであって,右原判決の判断をもって違法ということはできないし,また,これをもって異議権を喪失したと解することもできない。」裁判例2 「(二)このように,異議時より相当期間経過後に立退料の提供がなされた場合の効果について検討する。まず,形式的にいえば,前述のとおり,正当事由は異議時に存在するべきであるから,立退料の提供も右時点においてなされるべきであり,それ以後の時点でなされた立退料の提供をもって右時点における提供とみることはできない。次に,実質的に考えてみても,立借地期間満了後,1年10か月以上経過した後になされた立退料の提供が,異議申立期間を既に経過しており,「遅滞なく」異議の申立てをしたとは認められないとした事例東京高判平成元年10月30日(判タ752号179頁)1 異議申立ての時期 3

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