6_借正
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4 第1編 正当事由による借地契約の終了退料の金額の算定の中心的要素は借地権価格であるが,その基準となる土地の価格は,当時,時の経過によって相当程度上昇することが経験則上容易にうかがわれるところ,異議を述べてから,相当期間経過後に立退料が提供された場合に,立退料の算定要素の土地価格の基準時を異議時とすると,一方において,賃借人〔被控訴人〕としては,異議時に立退料が提供されていれば可能であった他の土地への移転が,立退料提供時では,その間の土地価格の上昇のため,異議時と同一の条件では困難になることが十分に推認し得るところであり,他方において,賃貸人〔控訴人〕としては,異議時における低額の土地価格を基準とする金額によって,提供時における高額の土地を入手できることになるわけであり,このような形で賃借人に不利益が生じる反面,賃貸人に利益が生じることは,公平でないというべきである。したがって,異議時以後になされた立退料の提供をもって,異議時になされた提供と同様の効果を生ずるものとすることはできない。 (三)次に,異議時の後に立退料の提供がなされた場合には,立退料の算定に当たっては提供時における土地価格を基準とすることを前提として,右提供を正当事由の補完事情として考慮してよいという考えがある。しかし,この考えによると,結局,正当事由の存否の時期が,異議時と提供時に分かれることになるわけであるが,そうすると,異議時から提供時までに消滅又は発生した立退料以外の正当事由を考慮すべきかどうかという問題を生ずることになるから,この考えは適当ではないというべきである。 (四)しかし,異議時の後になされた立退料の提供は全く無意味であるわけではない。異議は,期間満了後遅滞のない時点まで(これを仮に「異議申立期間」と呼ぶ。)になされることが必要であるが,もし,立退料の提供が右異議申立期間内になされたのであれば,右提供をもって当初の異議とは別個の,立退料の提供を伴う新たな異議として認めることができる。 本件においては,立退料の提供は,期間満了時から1年10か月以上も経過した時点でなされており,異議の申立てが遅くなったことを許容すべき特段の事情が存しないかぎり,「遅滞なく」ということはできず,異議申立期間はすでに経過しているものというべきである。」裁判例3 「原判決の確定するところによれば,上告人〔賃貸人〕は原審においてはじめて,被上告人〔賃借人〕らに対し立退料150万円を贈与する意思がある旨主張し,これに基づいて被上告人らに対し,右立退料の支払と引換に本件建物収去及び土地明渡を請求するに至ったというのである。これに対し,原判決は,所論更新拒絶の正当事由の有無を判断するについては,土地所有者が遅滞なく異議を述べるべきであった時期を基準とすべきであり,更新拒絶の正当事由判更新拒絶の正当事由の有無を判断するについては,土地所有者が遅滞なく異議を述べるべきであった時期を基準とすべきであり,立退料支払の条件提示は,その基準時期後に生じた事実であって,正当事由としては斟酌し得ない。最判昭和39年1月30日(裁判集民71号557頁)2 正当事由の判断基準時 正当事由については,遅滞なく異議を述べたときに具備しているかどうかを判断すべきであろうか。この点について,次のような判例がある。

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