70 第2編 正当事由以外による借地契約の終了る。 ところで,借地法の適用のある借地契約につき借地人が更新請求権を予め放棄することは,一般に同法第4条第1項,第6条第1項等の規定に反し,借地人に不利益なものであることはいうまでもないから,本件においてこれが同法第11条の規定に該当せず,無効でないというためには,被控訴人のした右更新請求権の放棄が同人にとって不利益とならない特段の事情が存するものでなければならない。右の点については,前記認定のとおり,控訴人は被控訴人に対し,借地期間満了時における明渡料の支払に代えて,その前10年間の賃料(当時において1か月金5,000円)を免除する旨の意思表示をし,被控訴人はこれを応諾しているものであって,被控訴人としては,右更新請求権の放棄の代償として,少からぬ利益を与えられたものということができる。しかしながら,前記認定の事実及び〔証拠略〕によれば,被控訴人は,昭和10年頃から戦時中の一時期を除き現在まで,本件土地で自転車,オートバイの修理販売業を営んできたもので,本件土地上に本件建物を所有し,これを住居及び店舗として使用し,その営業も同地域に定着し,将来その長男に右営業を継がせることを予定していたものであって,本件土地を必要としており,他に本件土地建物に代わるべきものを入手して店舗及び住居を移す具体的計画はなんらない等の事情が十分に認められるのに対し,〔証拠略〕によれば控訴人は他に駐車場用地を賃借しており,本件土地の返還を受けて同人宅への通路を拡張し右駐車場にも利用することを望んでいる事実は認められるものの,他に控訴人が本件土地を特に必要としている事情は本件全証拠によるも認めることはできない。したがって,右の事情からみると,前記更新請求権の放棄は,被控訴人にとって,前記10年間の賃料が免除されることによっても補うことのできない著しい不利益を伴うものであって,借地法第11条に該当し,無効なものといわざるをえない。 なお,昭和39年6月20日の前記の合意につき,これを本件賃貸借の終了時を昭和41年11月23日とするいわゆる期限付合意解約であり,その後は10年間の使用貸借とする旨の合意と解する余地があるとしても,借地法の趣旨に鑑み,右のような合意解約を有効と認めるためには,右合意に際し借地人が真実その意思を有していたと認めるに足りる合理的,客観的な理由があり,しかも他に右合意を不当とする事情が認められないことが必要であると解される。 ところで,前記認定の事実によれば,被控訴人は控訴人との間で本件賃貸借契約につき右のような期限付合意解約をするについて,右解約後は10年間は無償で本件土地を使用する権利を付与されてはいるが,使用貸借の法的効力については十分な理解を持たなかったものであり,また,右の使用貸借の期間満了時,換言すれば本件賃貸借の期間満了時に,無条件で本件土地を控訴人に明け渡す結果となることは,前記説示のとおり10年間の無償使用によっても補うことのできない不利益を受ける結果となるものであって,未だ合理的,客観的理由があったものとは認め難く,他にこれを認めるに足りる証拠はない。以上によってみれば,右期限付合意解約は借地法11条に該当し無効というべきであり,右解約を前提とする本件土地の使用貸借もその効力を生ずるによしないものというべきである。」
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