4 序論 過渡期を迎えた家族信託契約も家族信託支援業務を担う士業等の知識不足やトータル的サポート能力の不足さらには法令実務精通義務を全うしようという倫理観の欠如にあったと考えられる。 このため、これを糾弾する注目すべき裁判例も出始めた。 その1は、平成30年9月12日東京地裁判決である。登記手続を専門とする専門職が作成した私署証書による信託契約書が、「遺留分制度を潜脱する意図で信託制度を利用したものであって、公序良俗に反して無効」との理由で信託契約が一部無効とされた(「家族信託の実務 信託の変更と実務裁判例」第3編第3章参照)。裁判所において、はじめて家族信託契約が無効とされたことから、家族信託支援業務を担う者を震撼させたことは言うまでもない。その2は、令和3年9月17日東京地裁判決で、上記と同じ資格を持つ専門職が、高齢者から家族信託支援業務の委任を受けて信託契約公正証書を作成したが、これが信託口座開設金融機関において有効なものと認められなかったため、信託口口座が開設できず、不法行為による損害賠償責任を問われた(「家族信託の実務 信託の変更と実務裁判例」第3編第2章参照)。判決では、士業である被告において、原告に対し、信義則に基づき、原告が希望する金融機関の信託内融資や信託口口座等に関する情報を提供し、その中で信託契約を締結しても信託内融資及び信託口口座の開設を受けられないというリスクが存することを説明すべき義務を負っていたにもかかわらず、かかる情報提供をせず、またリスクが存することを説明しなかった義務の違反があったとされたのである。⑵ これらの判決等を受けて、金融機関における信託口口座開設が慎重になり、特に信託契約書のリーガルチェックが厳しくなったのはいうまでもない。しかし、一方で金融機関における顧客確保の必要性もあって、地方銀行や信用金庫、さらにはネット銀行も信託口口座開設に動き出している。 これらの金融機関は、口座開設申込者を士業専門職に限定しているが、事前チェックは厳しく、この業務を担う専門職は法令実務精通能力が求め
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