8 序論 過渡期を迎えた家族信託契約ます大事になっている。⑵ 信託税務の些細なことを掘り返し一層特異な信託に指し嗾そうする例も現れている 一方、信託税制に関しての税務当局の特異な事例の文書回答例や、あるいは租税法の定め方を、あたかも蟻の一穴がごとく言い、いささか大局を見失っているのではないかと思われる説明をしている専門家もいる。加えて、それを妄信しこれに呼応する家族信託の組成者もいるのである。その例の一つは、後述(第3編第2章第8款第1・1)する委託者の地位の移転承継の問題である。国税庁の文書回答を金科玉条のごとく扱い、契約条項に「委託者の地位は相続により承継する。」という例まで出てきており、驚いている。もう一つは、信託終了時の「債務控除」の問題についての考え方である。相続税法9条の2第6項の法解釈として、信託が終了した場合の同条4項の適用がなく、帰属権利者らが債務控除を受けられないとの見解である。このため、1か月間、場合によっては数日間、信託期間をわざわざ設けあえて受益者連続型信託を創り出しているのである。この間の受益者は帰属権利者等となるのであろうが、信託登記はどうするのだろうか、2回手続することになるはずである。また税の申告は相続税のほかに追加して行うのであろうか、むしろけもの道に誘い込んでいるように思えてはならない。⑶ 「実家信託」を破綻させかねない国税当局の回答にも驚かされる 令和4年12月20日、租税特別措置法35条3項に規定する被相続人の居住用財産に係る譲渡所得に関し、信託契約における残余財産の帰属権利者は特別控除の特例の適用はないという東京国税局の文書回答(https://www.nta.go.jp/about/organization/tokyo/bunshokaito/joto-sanrin/221220/index.htm)があった。要は、空き家対策のためのいわゆる「実家信託」では譲渡所得の特別控除の特例は受けられないというものである。この家族信託を利用
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