4_家契
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14 第1章 家族信託契約の法制度を知る 「家族信託では、信託財産はいったん受託者の所有となるが、受託者の固有財産にはならない。一方、委託者の相続財産からは消える」、このことは、依頼人等になかなか理解していただけず、この15年間多くの人に何度も繰り返して説明してきたことがらである。読者をいささか混乱させることかもしれないが、まずこれだけはしっかり理解してほしいという思いから最初に説明する。■ 事例:相続放棄と信託財産  Sの子、長子Tと次子Bのうち、次子Bは亡き母親と確執があり、Sの妻の遺産相続でひと悶着があった。そこで、Sは、自分の相続のときは、相続人の協力を得ずして遺産の承継(相続)ができるようにと考え、自宅不動産については、いわゆる「相続させる遺言」を選択し、「長子Tに相続させる」としたためた。また、金融資産6000万円については、長子Tが自由に出し入れできて遺産分けができるようにと考えて信託契約を選択し、残余財産についてはT及びBに均等に給付するとし、受託者をTとする信託を設定した。 Tは、当該金銭をR銀行に開設した「受託者T信託口」とする口座に入金し管理していた。その5年後、Sが死亡、四十九日が過ぎた日に告別式にも出席しなかったBから「相続放棄書(相続放棄申述受理証明書)」が届いた。 Tより上記金銭につきいかなる処置をしたらよいか相談があった。筆者は、「理論的には、信託財産である金銭6000万円は信託の設定と同時に、父親Sの所有財産から離脱して誰のものでもない財産となっている。Sの死亡と同時にSが信託契約で残余財産の帰属を指定したとおり金3000万円はBに帰属しており、相続放棄はこの信託財産の残余財産までは及ばないと考える」と説明した。 信託契約では、このような特異なことも起きてしまうのである。

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