1 難しいが奥の深い家族信託契約■ 信託設定意思と信託成立要件 信託の成立要件は、当事者の信託設定意思に通じる。そして信託に関しては、当事者に信託設定意思ありと認めるために必要なのは、当事者が「信託の定義を認めること」ではない。信託の基本的3要件を満たさない信託は、信託設定意思ありとは言えないと考えている。「信託設定意思」の意義及び信託設定意思がない例については、拙著「家族信託の実務 信託の変更と実務裁判例」:第3編第1章第3を参照されたい。 信託の定義にある基本的要件のほかに、信託では、信認関係に裏打ちされた委託者、受益者、受託者の権衡が取れた関係が確立されていることが不可欠である。すなわち、「信認義務に裏打ちされた一定の目的を実現するための仕組みが構築されていること」が、第3の基本的要件であると考えている(「信託法セミナー 1」58頁参照)。 信認関係の中身の問題かもしれないが、信託の信認関係は、単に受託者を信頼して託するということではなく、基本的には受託者において信託の利益を享受しないで、信託の目的を実現すること、これが信託設定意思の存在の要件となろう(同頁)。⑴ 筆者は、ほぼ15年間、家族のための信託の制作にあたっているが、実は、当初、家族信託契約には取り組むことができなかった。 その理由は、家族信託契約には、確かな受託者の確保のほか、四つの関門をクリアできる企画制作能力が求められるのに、これが十分でなかったからである。その企画制作能力とは、❶本人(委託者)生存中における財産の管理と本人の生活の支援の仕組みを成年後見制度と両立させて確立すること ❷本人死亡時の相続問題(主に遺留分の問題など)を解決すること 第2 長期にわたり本人と家族を護る家族信託契約 21第2 長期にわたり本人と家族を護る家族信託契約
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