信託と分離した場合に、それが独立して機能するのであろうか。不動産管理処分信託にあっては各種信託費用を賄える金融資産がない場合には、その信託は機能しない。かかる分離を選択する実務家の多くは、「信託費用は、受益者に請求してこれを支払うものとする」としているが、これを選択すべきでないことは再三述べているところである。 ❷の自宅不動産の場合も同様である。潤沢な金融資産が同時に信託財産になっている場合は別であるが、多くの場合、信託設定にあたっては賃貸用不動産からの収益があるので信託金銭はあっても少額である。中には、ともに信託金銭は「零」というものもある。しかし、委託者、受益者、受託者の三者が複数の信託で同一と言っても、それぞれの信託は別個独立した一種の法人格を有するとみなされる。自由に信託財産となっている金銭を融通しあうことは、信託財産の分別管理の観点からも受託者の義務違反になってしまうおそれもある。 ❸の例において、確かに信託登記が煩雑になる場合がある(本書172頁[表記に迷う複数委託者にかかる信託登記]参照)。しかしながら、かかる不動産信託は、ともに委託者が死亡した場合共有関係を解消し、一つの信託財産として管理活用しようとする目的の信託であり、一つの信託として事務処理されるのが最も合理的である。第二次受益者に代わったときに信託の併合をすればよいという考えもあろうが、信託の併合には債権者保護のための官報による公告手続も伴うのであり、一つの契約にすればそこまで煩雑な手続をとる必要はないのである。 ただし、委託者及び受益者が複数の場合、課税については注意が必要であるので、受益権の内容(割合)等の明確化は不可欠である。なお、上記❷に関連するが、反対に、複数の信託を設定している場合は、租税特別措置法41条の4の2第1項(不動産所得に係る損益通算等の特例)の問題も起きる(本書152頁参照)。第1款 選択する信託行為 203
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