家族のための民事信託(家族信託)は、正しい信託の仕組みを組み立て、これを誠実に事務処理することに真の姿がある。 信託の創造者(企画及び制作者)は、正しい信託を制作し提供するにあたり、この信託を使う人の多くが、専門的知識のない一般の人であり、しかも、この一般の人が普段の生活の中で長期間にわたりこれを自分自身や家族を護るために利用する仕組みであって、何も特別な儀式で使うものではないことを忘れてはならない。 ここにきて、家族信託は多くの人に認識され始め、その利用も急激に増加している。その中で、さまざまな分野の専門家が、無限の広がりがある家族民事信託(なお、家族信託という言葉は、今日、商事信託でも広く利用されているので、本書では、特に民事信託であるとして強調したい場合は、「家族民事信託」という用語を用いた)の組成が可能であると称して、この家族信託の分野に進出し、信託設定書の作成に関わっている。これが信託口座開設のために金融機関に持ち込まれているが、これを見る限り長期間活用できる家族信託の創造とは言えず、いわゆる「信託もどき約束ごと」に過ぎないものも少なくない。その実は、専門家を名乗る人の家族民事信託に関する基礎的知識の欠落と、生きた家族信託を創り出すという問題意識のなさにその原因があるといえる。 家族信託契約は、本人の資産を適正に管理し、家族と本人の生活を護り、しかも円滑な資産の承継を実現する新しい財産管理制度である。 この家族信託制度は、端的に言うと「受益者のための仕組み」であり、受託者や第三者のための制度ではない。このことを忘れて、受益者と受託 iiiはしがき
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