講家上
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1はしがき 家事事件手続法が平成25年1月1日に施行されてから5年が経過した。施行までの各方面の準備や施行後のさまざまな運用上の工夫などに向けた関係者の御努力を得て,同法は,実務に確実に定着してきているように思われる。 同法の制定は,それまでの家庭裁判所の実務運用を踏まえつつも,他の各種手続法に現れている理念をも取り入れた本格的な手続法という意味で,家事事件処理手続の一種の到達点であり,また,大きな転換点を画するものであることは間違いなかろう。他方で,家事事件の処理のあり方もスピードを増す時代の変化に機敏に対応していくことが問われている中で,同法が制定されたことは,そのための土台が形成されたという評価が可能であろう。その意味では,現時点は,将来においてこの分野の発展の歴史を振り返ったとき,新時代の黎明期であったと位置づけられることになるともいえそうである。 本書は,そのような段階において編まれる本格的な解説書である。裁判所の判断の基礎となる情報を提供し合うとともに,世間の良識を踏まえた調整を図り,ときに専門家の意見も斟酌しながら解決策を見出す家庭裁判所の営みは,ダイナミックでありきわめて魅力的なものであるが,残念なことに,家事審判法時代のこの分野における理論面・実践面の探究は,法律の研究者や法律実務家共通の重要テーマというには至っていない状況にあった。家事事件手続法の制定過程を通じて,この分野に対する一定の関心が寄せられ,また,法改正をきっかけにこの分野における論考が多く発表され始めていることは幸いであったが,家庭をめぐる紛争が家庭裁判所に持ち込まれることが増加し,司法による解決への期待も今後ますます高まってくることが見込まれていることを考えれば,これに止まることなく,さらに多くの研究者の方々の研究対象に加えていただき,将来にわたって大いに発展させる必要のあるこの分野の理論的支柱になっていただくとともに,法律実務家に常に関心を持っていただき,解釈上の問題や法律上,運用上の課題を指摘していただくことが,家事事件の適切な紛争解決手段として機能し続けるために不可欠であろう。はしがき

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