講家上
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5⑵ 憲法82条と32条の対象の同一性⑶ 憲法32条の意義─広範な「立法政策論」第2 従来の議論の整理──判例法理の意義,学説の批判,新たな胎動  以上のような訴訟・非訟2分論は,憲法82条と憲法32条の適用対象を限定することを目的に定立されてきたが,伝統的にこの両者の規律対象は同一であるとされてきた。この点につき,既に前掲最大決昭和35年7月6日は,32条の適用範囲と82条のそれを黙示的に一致させていたが,前掲最判昭和48年3月1日はその点を明示した。そこでは,「当事者の意思いかんにかかわらず終局的に事実を確定し当事者の主張する実体的権利義務の存否を確定することを目的とする裁判が憲法32条にいう裁判,すなわち,固有の司法権の作用に属するところの訴訟事件であって,これについては憲法82条の『公開の対審・判決』が要求されるが,他方,基本的な法律関係はこれを変更せずに,裁判所が後見的立場から合目的の見地に立ち裁量権を行使してその具体的内容を形成する裁判は,固有の司法権の作用に属しない非訟事件の裁判であって,これは憲法32条,82条にいう裁判ではないと解すべく,したがって,非訟事件の手続および裁判に関する法律の規定について憲法32条,82条違反の問題を生じない」として,憲法32条及び82条の対象を全く同列に論じ,これが判例法理であると明言している。強制執行停止申立てに係る最決昭和59年2月10日(判タ523号155頁)も,「憲法82条にいう裁判とは,終局的に当事者の主張する実体的権利義務の存否を確定することを目的とする純然たる訴訟事件についての裁判のみを指すものである」とし,「したがってまた,憲法32条の違反をいう論旨のうち右違憲を前提とする部分も,理由がない」と判示して,両者の同一性を当然の前提とする。 後述のように(2⑵参照),学説は,比較的早くからこの両者の適用対象を区別する議論を展開していたが,判例は,基本的に一貫して憲法82条と32条でその適用対象は区別しないとの立場を堅持してきたものと言える。この点は,見方によっては,訴訟・非訟2分論それ自体よりも,判例と学説との乖離を体現しているものともいえる。ただ,後述の平成20年決定(最決平成20年5月8日)の少数意見において,このような状況にも変化の胎動を見ることができる。 次に,憲法32条が保障している内容についての判例法理である。既に刑事

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