9⑵ 憲法32条の非訟事件への適用第2 従来の議論の整理──判例法理の意義,学説の批判,新たな胎動 16)このような新堂説は,後述の立法者のフリーハンドの実態を見るとき,極めて優れた洞察と思われる。しかも,実体権の内容は財産権だけではなく,例えば身分権(子の引渡しの権利等)の場合もあり得ることをも考慮すると,憲法29条の射程は及ばず更に立法者のフリーハンドは広がる結果になろう(ただ,このような場合は,憲法13条など他の人権が問題になるかもしれない)。17)新堂・前掲注15)32頁参照。判となるか裁量的形成的裁判となるかは,実体法の規定の仕方に依存する。すなわち,ある一定の要件事実が発生すれば一定の法的効果が発生するという規定の仕方をすれば,裁判はすでに存在する法的効果を確認するという形態になるし,要件事実を抽象化しその存在を裁判所が判断したときに一定の法的効果が生じるという規定の仕方をすれば,裁判は裁量的かつ形成的になる(中略)。したがって,最高裁の立てた基準は,どんな実体的利益について,裁量的かつ形成的な裁判形態になるような実体法規を作ることが許されるかという実体法の規制の問題に帰着し,むしろ憲法29条の財産権の保障に抵触しないかという問題に移行することにもなろう」として,「判例の基準は,到底われわれを納得させるものとはいえない」とする。16)そして,むしろ個別的アプローチによる適切な手続を模索する方向を示唆され,「対審構造をとらないことの理由,公開しないことの理由,判決の形式をとらないことの理由をそれぞれ検討すべきであり,その理由いかんによっては,事件の類型的性質に対応して,判決の形式はとらないが公開したり,また双方に対する審問を義務づけ,相手方に対する審問に立ち会う権利を認める(中略)等の手続保障を加味することによって憲法の要請に答えるというような,手続面での中間形態を工夫する途が開かれるし,また開いていくべきである」と指摘される。17) そして,学説の趨勢としては,新堂説のような方向で,判例を批判する見方が学説の多数を占めていくことになる。 上記のように,新堂説のような個別的アプローチは,学界においては比較的古くから主張されてきたものである。特に,判例とは異なり,憲法82条とは区別して,憲法32条の適用範囲を広く捉える理解が一般的であった。例えば,山木戸博士は,この問題が論じられるようになった初期の段階で,非訟
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