講家上
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第1章 訴訟と非訟25)伊藤眞『民事訴訟法〔第4版〕』(有斐閣,2011年)10頁参照。26)芦部信喜「裁判を受ける権利」同編『憲法Ⅲ人権⑵』(有斐閣,1981年)316頁参照。27)笹田栄司『司法の変容と憲法』(有斐閣,2008年)252頁参照。12実質的に主張・立証の機会を保障すれば足りるという形で現れるところに,非訟事件の特徴がある」と論じられる。25)これが前述のような現在の判例準則と乖離していることは明らかであろう。 また,このような理解は,民事訴訟法学界に限定されず,広く憲法学説などにおいても同様の傾向が見て取れる。例えば,芦部教授は,「憲法32条の『裁判』は,広く非訟事件の裁判をも含み,82条の原則を『指導原理』としてそれぞれの事件の性質・内容に相応した適正な手続の保障を伴うものでなければならない」とされていたし,26)この問題について近時詳細な研究をされる笹田教授も,「最高裁判例のように,憲法32条と82条の『裁判』を直列に結びつけるのではなく,憲法32条『裁判』は憲法82条『裁判』よりも広い概念と捉える方向を検討すべきである。すなわち,他の権力から独立した中立的な裁判官が,手続的公正に則って審理を行うのであれば,それは司法作用と言うべきであり,その際,手続的公正の核心として,法的聴聞,武器平等があげられる。憲法32条が規定する『裁判』は,公開・対審・判決を“標準装備”した訴訟=判決手続に限定されず,右のような司法としての性質を有する『裁判』を含むと考えられるのである。(決定手続で行われる)非訟事件(中略)が右の意味の司法作用であるなら,憲法32条の『裁判』に含まれる」と結論付けられる。27) このように,憲法32条を中核とする審尋請求権を非訟事件についても保障しようとする理解は,もはや通説といってもよい地位を学説上占めていると評価できよう。3 判例の流動化の胎動 以上のような学説の動向は,外観上,判例法理と大きく乖離し,それには全く影響を与えていないようにも見える。ただ,子細に見れば,決してそのようなことはなく,学説に影響を受けた判例法理の変化の胎動は見逃されるべきではない。

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