第1章 訴訟と非訟14同決定の法廷意見は,前述のように(1⑶参照),従来の判例法理の枠内での判示をしている。しかし,そこで示された補足意見や反対意見は,上記のような学説の動向を受けて,興味深い議論を展開している。 まず,田原睦夫裁判官の補足意見は,憲法32条について,手続の内容は全て立法政策というものではなく,憲法31条が一定の枠をはめているとの理解を示される。すなわち,「憲法31条の定める適正手続の保障は,同条が直接規定する生命若しくは自由に対する規制の場面だけではなく,国又は国家機関が,国民に対して一定の強制力を行使する場合に守られるべき基本原則というべきものであり,刑事手続だけでなく,民事手続や行政手続においても同条は類推適用されるべきものである。また,憲法32条の定める裁判を受ける権利は,憲法31条の定める適正手続の保障の下での裁判を受ける権利を定めたものであって,裁判手続において適正手続が保障されていないときには,憲法違反の問題が生じ得る」(下線筆者。以下も同じ)とされる。すなわち,非訟事件にも憲法32条の適用があるという理解を前提に,そこでは「適正手続の保障の下での裁判を受ける権利」が保障されなければならないとする。これは,(結論は法廷意見と同じものであるとしても)非訟事件を憲法的保障の埒外としてきた判例法理との絶縁を宣言するものと評価できよう。 さらに,那須弘平裁判官の反対意見は,より直截に非訟事件にも憲法32条の保障の下で審問請求権が妥当すると論じる。すなわち,「家事審判法9条の定める乙類審判事件の中にも強い争訟性を有する類型のものがあり,本件で問題となっている婚姻費用分担を定める審判もこれに属する。私は,少なくとも,この類型の審判に関しては,憲法32条の趣旨に照らし即時抗告により不利益な変更を受ける当事者が即時抗告の抗告状等の送付を受けるなどして反論の機会を与えられるべき相当の理由があると考える。このような当事者の利益はいわゆる審問請求権(当事者が裁判所に対して自己の見解を表明し,かつ,聴取される機会を与えられることを要求することができる権利)の核心部分を成すものであり,純然たる訴訟事件でない非訟事件についても憲法32条による『裁判を受ける権利』の保障の対象になる場合があると解する」とし,「憲法82条が要求する公開の対象となる事件の範囲を区切る基準(同条2項では,裁判官の全員一致で非公開とする例外的処理の途も認められている)と憲法32条が要求する審問請求権ないし手続保障の適用範囲を区切る基準と
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