講家上
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19第3 訴訟・非訟2分論──立法者のフリーハンドの容認と評価 の原則が常にあらゆる裁判に妥当し,何らの例外を許さない絶対の原則であるとまではいえない。(中略)裁判所の積極的関与を広範に認めるに至り,非訟事件又はこれに類する事件の多くなった近時の裁判においては,事件の性質上,その性質に応じた裁判の公正・妥当を保障する途を講ずる必要はあっても,事件そのものとして,公開・対審の原則になじまない事件も決してないわけではないのであって,人民の権利・自由に関するすべての裁判について,裁判の公正を保障する見地から歴史的に生まれた公開・対審の原則を採用しないからといって,直ちに違憲と断ずることはできないように思う。要は,そうした例外を認めることが,公開・対審の原則を保障した憲法の趣旨に反しないだけの合理的根拠があるかどうか,また,それに代る裁判の公正を保障するための手続的保障が与えられているかどうかにかかっている」とされる。 このような田中補足意見は,結局,手続保障については,公開だけではなく多様な方途があり得ることを示唆し,むしろ憲法32条の展開可能性を内包する議論と言える。その意味で,このような理解は学説から好意的に受けとめられ,学説の関心と整合的なもののようにみえる。いわゆる訴訟・非訟2分論は,学説からみれば,その中身は相当ではないかもしれないが,(憲法82条に関する限り)学説の議論の決定的障害になるわけでもなく,むしろ憲法32条の実質的内容を主戦場にするというのが学説の基本的スタンスということになろうか。3 「訴訟と非訟」論に関する小括 以上のように,判例法理の下では立法者の政策判断の裁量は広い。しかし,判例上「純然たる訴訟事件」とされるものの中核(例えば,貸金返還請求,損害賠償請求など)は,いかなる法律構成や説明をとったとしても,直接の非訟化は不可能であると考えられる。その意味で,立法に対する最低限の憲法上の縛りはなお存在する。ただ,このような場合であっても,秘密保護や迅速化など非訟化のニーズが顕現する事件類型はあり得る。そこで,その場合の対応策として,近時クローズアップされている方途として,非訟前置による対応,すなわちハイブリッド型手続の可能性が隆盛をみている。その当否の評価は,「訴訟と非訟」論の現代的課題と言えよう(第4参照)。

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