講家上
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23第4 ハイブリッド型手続の隆盛──純然たる訴訟事件の非訟化のテクニック 42)最大決昭和41年3月2日前掲は,「家庭裁判所は,かかる前提たる法律関係〔筆者注:相続権,相続財産等〕につき当事者間に争があるときは,常に民事訴訟による判決の確定をまってはじめて遺産分割の審判をなすべきものであるというのではなく,審判手続において右前提事項の存否を審理判断したうえで分割の処分を行うことは少しも差支えないというべきである。けだし,審判手続においてした右前提事項に関する判断には既判力が生じないから,これを争う当事者は,別に民事訴訟を提起して右前提たる権利関係の確定を求めることをなんら妨げられるものではなく,そして,その結果,判決によって右前提たる権利の存在が否定されれば,分割の審判もその限度において効力を失うに至るものと解されるからである。このように,右前提事項の存否を審判手続によって決定しても,そのことは民事訴訟による通常の裁判を受ける途を閉すことを意味しないから,憲法32条,82条に違反するのではない」とする。 また,前置される非訟事件や非訟手続に全く制限がないのかも問題となる。例えば,立法論として議論されている民事審判(前掲注40)参照)のようなものについて,あらゆる事件をこのような枠組みの手続にすることが憲法上できるのかといった疑問である。確かに判例法理は,基礎となっている法律関係(純粋の訴訟事件の部分)については,判決手続におけるレビュー可能性があれば,非訟手続で一次的に判断できるとしている。42)そうであるとすれば,同一の法律関係でも理論的には同じこと(むしろ当然との理解)になるはずであろう。しかし,実質的に考えれば,このような手続は,非訟手続によって迅速に解決できること,換言すれば(大部分の事件では)異議等により訴訟手続に移行しないことを期待する制度と言える。極論すれば,全ての事件でもし異議等が出るようであれば,このような手続を作るのは無意味になるからである。したがって,異議等が出ずに非訟手続限りで終結する事件が相当数あることを前提にすれば,前置手続についても一定の規制は必要であるとの理解も生じ得る。具体的には,このような手続を採用する実質的な理由(迅速性の要請など)による対象事件の限定とともに,前置非訟手続のあり方(前置手続における手続保障の程度)についても,一定の歯止めは必要ではないかという問題意識である。訴訟が後ろに控えてさえいれば,前の手続がどのようなものであってもよい,ということになるかは疑問もあるところであろう。これらの問題について,今後の理論的な解明が期待される。

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