第5 非訟化のニーズと受け皿となるべき非訟手続1 非訟化のニーズの所在と対応の可能性 ここでは,まず非訟化のニーズの所在を確認し,訴訟手続と非訟手続の違いから,それぞれの手続に適合した事件を分類していく機能的アプローチをとる。43)非訟化のニーズとしては,大きく,秘密保護(公開制限)の要請と迅速性の要請があると思われるので,44)これらにつき順次検討する。 まず,公開性(秘密保護)の問題である。家事事件に代表されるように,訴訟手続における公開審理を避けるために,非訟化のニーズが存在する事件類型は,近時のプライバシー・個人情報の保護や企業秘密の保護の潮流に鑑み,相当数あるとみられる。この場合には,判例法理を前提とする限り,ほぼ唯一の実効的な解決策が非訟化ということになる。そして,仮に秘密保護だけが非訟化の理由であるとすれば,非訟事件にするとしても,その手続については,非公開以外の部分は訴訟手続とパラレルなものとしておく可能性はあろう。45)他方,判例の枠組みを前提としても非訟化がなお困難な類型に関しては,訴訟事件に残しながら,憲法82条2項但書の例外を利用するほかはないことになる。46)しかし,そのハードルはかなり高く,47)例えば,離婚訴訟については非訟化の余地もあり得るとしても,48)親子関係訴訟や知財訴訟などは第1章 訴訟と非訟43)これは,三ケ月・前掲注13)52頁以下において述べられる方法論(「訴訟の本質」「非訟の本質」という議論を先行させるのではなく,「訴訟の非訟化」といわれる流動現象のニーズを出発点とする考え方)と基本的に同じものであろう。44)そのほかにも,簡易性・柔軟性などもあるが,これらは迅速性の一つの系として扱えば足りよう。また,裁量性という点もあるが,これが非訟化を真に要請するものか,疑問を否めないこと(形式的形成訴訟や一般条項という,訴訟手続を前提にした制度構成も存在する)に加え,手続への反映は結局,迅速性の要請のある事件とパラレルになると思われるので,やはり独立に検討することはしない。45)ただ,通常は,秘密保護だけではなく,迅速性その他の要請も同時に認められるので,訴訟手続と完全に同じ手続にはならないことが多いであろう。46)ハイブリッド型の可能性はあるが,異議等が出ることを考えれば完全な解決策でないことは明らかであろう。47)人事訴訟(人訴22条)や知財訴訟(特許法105条の7)における当事者尋問等の公開停止の取組みがあるが,その要件を一瞥すれば,そのハードルの高さが実感できよう。48)離婚請求権を前提にせず,裁判所の合目的的裁量に基づき離婚を認める手続にしていけば,非訟事件として再構成する可能性は(その当否を別にすれば)理論的にはあり得よう。24
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