講家上
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第6 おわりに──新たな理論的地平を求めて非訟事件に関する議論が始まった兼子説の時代とは,行政事件における実定法上の手続保障のレベル感が全く異なっていることに注意を要する。行政手続法等の制定を前提にするとき,そこでの書面提出権,弁明付与の通知などの手続権のレベルは,非訟手続の「下限」として重要な意義をもつことになろう。60) 以上述べてきたとおり,判例の憲法解釈は,実質的には立法者に広い裁量を付与するものであり,そのこと自体は必ずしも不当ではない。しかし,より実質的な観点から合憲性審査の可能性があってよいのではないかという点が学説に共通する問題意識であり,本稿もそれを共有している。少なくとも,現行判例法理のように,形式的な合憲性審査基準を突破すれば,全て政策的裁量の世界に入ることが適当とは思われない。対象となっている法律関係の性質のほか,非訟化の実質的な必要性,非訟化後の手続のあり方等も憲法論としてなお考慮されてよいであろう。 本稿の見方は,憲法82条という形式性の呪縛から抜け出し,61)憲法32条の実質的解釈の必要性への視座の移動を説くものであり,これはまさに学説がこれまで積み重ねてきた議論と視点を同じくし,その点で特に新味はない。憲法82条を根拠にするとき,秘密保護の要請からむしろ憲法上の保障の例外が拡大する(適用対象が限定される)おそれがあり,手続の全てを憲法の外に投げてしまうことへの懸念が高まる。それを避けるためには,上記のような第1章 訴訟と非訟60)このような問題意識については,山本和彦「家事事件手続における職権主義,裁量統制,手続保障」判タ1394号69頁以下(同・前掲注35)『民事訴訟法の現代的課題』357頁以下所収),同「法の実現と司法手続」佐伯仁志ほか編集委員『現代法の動態2 法の実現手法』(岩波書店,2014年)316頁以下(同・前掲注35)『民事訴訟法の現代的課題』178頁以下所収)なども参照。さらに,不服申立ての段階までを考慮した「行政処分の非訟化の限界」の議論も,この文脈において重要な意義を持つ。このような議論については特に,中川丈久「行政上の義務の強制執行は,お嫌いですか?」論究ジュリ3号62頁以下参照。61)そこでは,憲法82条の意義は相対的に弱まることが前提になる。迅速性・秘密性を求める世論を前提にすれば,将来の方向性としては,この点についてむしろ憲法改正の可能性も視野に入ろう。前掲注49)も参照。28

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