11_心問題
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2  第1章 はじめにどのような方でも家族のトラブルを抱えることはあります。家族のトラブルを抱えたからといって,自分又は家族の誰かに心の問題があるのではないかと解釈する必要はありません。しかし家族の誰かが心の問題を抱えると,それが家族のトラブルにつながることが多いことも事実です。精神的な問題が家族のトラブルに直結するケースとしては,民法770条1項4号で「配偶者が強度の精神病にかかり,回復の見込みがないとき」が離婚原因として挙げられていることが典型例でしょう。コミュニケーションを取ることが困難であるほどの強度の精神疾患であれば,婚姻関係の根幹である夫婦の意思疎通とそれによる信頼関係が成り立ちませんから,病気にかかった配偶者への看病や離婚後の備えを尽くしたといえるときには離婚が認められています。それ以外にも,精神的な問題に起因する不貞,浪費,転職・休職・失業,他者との衝突,自殺未遂などが家庭内トラブルにつながることがあります。また,精神的な問題が間接的に家族の紛争につながるケースもあります。例えば,子どもの障害に対する父母間の育児方針の相違が離婚に発展する場合です。次のような流れを想像してみてください。1 心の問題と家族のトラブル弁護士が,家族や男女関係に関する法律相談(本書では「家族のトラブル」と呼びます)を受ける時,当事者のうつ病・依存症などが離婚原因として挙がっていること,当事者や子どもがパーソナリティ障害・発達障害などの診断を受けている又はその傾向が疑われること,家族のトラブルに晒された当事者が重度ストレス反応・うつの症状を呈することなどがあります。このように紛争の背景にある(と思われる)何らかの精神の障害や疾患のことを,本書では「心の問題」と呼びます。

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