11_心問題
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第1章 はじめに  3円満な夫婦に待望の第一子が誕生しました。しかし3年後,子どもが自閉性障害と診断されます。妻はショックを受けますが,この子のために何ができるかと調べ尽くした情報から「自閉性障害の子に対応した療育を提供しているこの教室に通わせたい」と夫に資料を見せます。しかし夫は「別にどちらでもよい」「お金が足りるか分からない」といった返事です。妻には夫が子どもの障害から目を背け,関わり合いになることを避けているように思えます。それで妻は,障害を抱える子だからこそ父親の存在が通常以上に大切であると力説し,夫にも妻と同レベルの関わり合いを求めます。しかし夫としては,妻が子どもの療育に入れ込みすぎているように感じ,どんどんお金を使われてはたまらないという警戒心もあります。夫としても子どもに最善の環境を整えたい気持ちは同じで,だからこそ一生懸命に働いているのに,いつも妻からは感謝どころか「努力が足りない」というメッセージしか来ず,要求ばかりが次から次へと繰り出されます。妻と話し合おうとしても,「子どものことは母親である自分がいちばんよく分かっている」「あなたは子どものためにすべてを犠牲にできないのか」と言われると,反論できません。こうして夫婦間のすれ違いが重なり,溝が深まってゆきます。とうとう,夫が離婚を希望して別居し,「妻に日々責め立てられる生活には耐えられない。このままでは精神的に限界で仕事にも支障が出てきている。子どもへの責任は果たす意思があるので養育費は最大限支払う。だから離婚をしてほしい」と申し出ます。妻は「自閉性障害の子どもを捨てて出て行くなど人として最低である。これまでも子どもに向き合ってほしいと頼み続けたのに応じてくれなかったのだから,離婚後の養育費の支払いなど決して信用できない。だから離婚には絶対に応じられない」と反応します。このようなケースで,子どもだけでなく夫婦の一方又は双方にコミュニケーションの問題があり,それがさらに紛争を悪化させている場合もあります。以上のように心の問題が家族のトラブルにつながる場合もあれば,家族のトラブルから精神的な問題が発生する場合もあります。家族は本来,愛情と信頼に基づく最も密接な人間関係であり,家庭は安らぎと休息の場であるはずです。それが逆に,対立や不信に彩られた不安定な関係又は場所となるなら,人間としての基本的な必要が満たされず,日々,苦痛や緊張を感じるこ

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