8 第1章 はじめにてくる議論をされることがあるかもしれません。一度つけこまれると,ずるずると相手に踏み込まれ続けることがあります。挑発に乗ると,いつのまにか自分まで脱線して足をすくわれることにもなりかねません。援助者が感情的になってしまうことも禁物です。当事者の独特の考え方や反応につい苛立ちを覚え,それをそのまま出してしまうと,本論とは関係ない言葉尻を捕らえた論争に発展してしまったり,その後どれほど当事者のことを思ったアドバイスをしても聞き入れてもらえないなど,解決が遠のいてしまいます。ですから,援助者の側としては,できないことはできないとはっきり示すこと,「常識」「法律」を固持して一貫性を保つこと,客観的な立ち位置を確保しておくこと,感情的にならないことなどが大切です。例えば紛争の相手方が自己愛性パーソナリティ障害であると判断できる場合,残念ながら話合いでの解決が難しいことが予想されますので,早い段階で裁判所での手続を検討すべきです。協議で穏便な解決を目指そうとするあまり,相手方の激しい感情,一方的な理屈,執拗な要求などに屈し,考えてもいなかったような不本意な条件に同意してしまっているケースも相当数あります。「裁判をすると相手方の怒りを余計に掻き立てるのではないか」と心配される当事者もいますが,いずれにしても不合理な怒りを(例えば単に別居した,離婚を希望したというだけの理由で)既に買っているのであれば,さらに裁判をすることを思いとどまる必要はありませんし,裁判をしなかっ(4) 適切な手続を選択する����������������これは心の問題を抱える方に限りませんが,心の問題の種類によってはその症状の一環として認められることとして,事実とは異なる認識・記憶を有していること,被害感情・処罰感情などが通常以上に強いこと,独自の理論や価値判断にこだわって他の意見に耳を貸さないことなどがあります。特にパーソナリティ障害の方が,援助者の介入を必要とするほどの人間関係のトラブルを抱えてストレスを覚えているシーンとなると,そのような傾向が顕著に観察されます。
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