11_心問題
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もちろん,そのような難しい事案は決して多くはなく,裁判よりも協議や調停のほうが適するケースのほうが一般的です。発達障害をもつ方との関係などでは,コミュニケーションの方法を工夫することによって,こじれていた話合いがうまくいくようになることもあります。一般的には当たり前と思われる「言わずもがな」なことが意外に分かっていなかったという場合には,それをきちんと説明することで納得してもらえることもあります。当事者がうつであれば裁判所での手続が過度の負担にならないかという配慮も必要となってきますし,ときには手続を保留して治療を優先させたほうが結果的には早期解決に向かうこともあるかもしれません。障害を持つ子を監護している親に対して強硬に離婚請求を進めることや,心の問題を抱える監護親や子に対して面会交流に関する裁判手続を強硬に進めることなども,必ずしも適切ではないといえるでしょう。このように,当事者の特性を考慮に入れた手続選択はとても大切です。例えば依頼者が,自分の要求を通すため,違法又は不当な手段を使うよう弁護士に要請し,これに応じないときに「そのせいで負けた」などとして弁護士を訴えてくる場合が考えられます。また,DV加害者の夫が,妻の代理人弁護士について,「悪徳弁護士が妻を唆して金を巻き上げようとしている」第1章 はじめに  9たことで相手方から感謝されるわけでもありません。裁判所の手続を利用することにより,相手方にも,裁判所の目がある,あまり無謀な行動に出ると自分に不利になる,法律に則って判断がされるので相手方の理屈を押し通すことができない,といった意識を持ってもらう方が安心でしょう。(5) 自分の身も守る�������������������先に述べたことと重なりますが,援助者は,依頼者の利益のために最善を尽くすとはいえ,依頼者の矛先又は相手方の攻撃が援助者に向きそうなときには,現実的な方策を取ることも必要です。相手方はもちろんのこと,仮に依頼者であったとしても,暴力に対しては警察を呼ぶことをためらうべきではありません。

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