132 第5章 設 例妻側弁護士の解説1 監護者の判断基準⑴ 主たる監護者監護者を判断する上で考慮される要素は多数ありますが,最も重要な要素の一つは主たる監護者が誰であったかということです。この要素は子の年齢を問わず重視されますが,特に子が幼いうちは,主たる愛着形成の対象が誰かということを見られます。この点,長女が3歳になる頃までは専業主婦であり,その後はパートである妻の側が本件では主たる監護者であったものと考えられます。したがって,監護権を得るためにいったん自宅に戻る必要はなく,別居した状態で監護者指定・子の引渡しの審判及び審判前保全処分を申し立てることができます。もちろん,主たる監護者であっても,その監護に問題があった場合は監護権が認められにくくなります。夫は妻がうつであったことを主張するものと思われますので,うつであっても育児に支障を生じたことはなかったこと,うつの原因が夫のDVにあること(婚姻前に既往歴はなかったこと等),現時点で育児能力に問題がないこと等を反論に含められるかもしれません。⑵ その他の考慮要素その他の考慮要素として,現況の監護状態,子の意思,監護意欲なども挙げられます。本来,DV加害者が子を監護する環境が子にとって良いとは考えにくいですが,母親不在の期間が長くなるにつれ,子どもたちが元の自宅で母親のいない生活に外面的・表面的に適応してしまう可能性や,母親への認識もすり替えられてしまう可能性もあります。別居後すぐに子の監護についての申立てをしないなら,DVの主張や母親側の監護意欲にも疑問が持たれることでしょう。そもそも,母親の不在により子どもたちがDVの対象となることや,子どもたちが「自分たちが悪い子だったからお母さんが自分たちを置いて出て行ってしまった」と考えてしまうことが懸念されます。ですから1日も
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