5国際取引を促進する国際的枠組み9第1章 国際ビジネス法とは、どういうものか予防法務の重要性 国際ビジネスの基本は、いかに紛争を予防・回避するかが重要だ。その重要性は国内取引に比べて格段に大きい。その基本的な作法として、リスク・マネジメントの観点から契約をレビューし、不利な契約を回避するとともに、万一紛争が起きた場合に備えて、その損失を最小限にするための努力が必要となる。特に多国籍企業では、各国の法制度を踏まえつつ、グローバルなビジネス戦略を展開することが求められる。過去の経験を踏まえ、可能な限り将来を見通して、何が現実的な選択肢として考えられ、どう絞り込んでいくかを、それぞれの問題ごとに考察していく能力と技能が期待される。GATTからWTOへ 国際ビジネスを円滑に行えるためには、国際的な合意に基づいて統一的なルールを構築し、適用される法が統一・調和されることが望ましい。その理想に向け、世界的な貿易の枠組みとして1947年の「関税及び貿易に関する一般協定」(GATT)がほぼ半世紀にわたって機能していた。GATTの下ではラウンドという多国間交渉が行われ、関税障壁の除去等によって貿易の自由化が大きく進展した。その後、1986年からのウルグアイ・ラウンド交渉において、GATTを発展的に解消させる形で、合意された諸協定を実施、管理する枠組みとして、「世界貿易機関を設立するマラケシュ協定」が発効し、1995年に世界貿易機関(World Trade Organization=WTO)が成立した。 WTOは、多国間の包括的なルールを定めるため、貿易交渉のためのフォーラムを提供するほか、各国の国内貿易政策を監視し、貿易をめぐる紛争処理や貿易に関する途上国への技術支援等にも取り組む。また、WTOは、円滑なサービス貿易の実現を目指して、「サービスの貿易に関する一般協定」(General Agreement on Trade in Services=GATS)を設けた。さらに、WTOは、アンチ・ダンピングや知的所有権等、幅広いルールを規律しようとしており、2016年7月以降164カ国・地域が加盟している。上記マラケシュ協定には、これを改正する議定書の締結により修正が加えられている。ただ、一部の国で保護主義を主張する政治家が支持されるようになった結果、WTOの求心力が弱まり、─ WTO、国際連合、複数国家間、民間団体等による多元的な取り組み
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