本書は,そのヒントを提供するものであり,弁護士が「難しい依頼者」への有効な対応策を練るため,いくつかの仮説を立てられるようになることを目指しています。パーソナリティ障害の類型,特徴,その対応法を知識として持つことは,あなたが「難しい依頼者」への対応法について,いくつかの仮説を持てるようになるということです。 翻って考えてみれば,法律的な紛争についても,実定法や判例を単純に当てはめることはできません。現実の事象から,どの事実を拾って,どう法律構成するのかは,実は複雑な要素が絡んでいますし,各法律家の価値観にもよります。しかしそうはいっても,人と人とが争っているとき,法律家はいくつかの法律構成の可能性,すなわち,紛争解決の道筋についての,いくつかの仮説を立てることができます。そして,どの仮説を採用すべきかをよく考えて決定します。それと同じことを,法律家が依頼者との対人関係でも行うことができればよいのです。 法律上の要件・効果論が争いの実態を分析して適切な解決を導く指針となるように,パーソナリティ障害の類型とその対応法の一般原則が,「難しい依頼者」の内面を理解し,弁護士とのこじれた関係を解きほぐす足掛かりとなるはずです。 第Ⅰ部では,本書で想定している「難しい依頼者」とは何かについて概念を整理し,パーソナリティ障害についての基本的な説明を行います(第1章)。 そして,難しい依頼者のパーソナリティの見立て方について,いくつかのヒントを述べます(第2章)。 第Ⅱ部では,法的紛争の場面によく現れると考えられるパーソナリティ障害の類型を6つ取り上げ,それぞれの特徴,原因,対応法を説明した上で,具体的な事例に沿って依頼者の心理の理解と対応法の具体例を示します。なお,それらの事例は,いずれも複数の事例を組み合わせて作成したモデル事例です(第1章〜第6章)。 さらに,難しい依頼者への対応法について少し視野を広げ,パーソナリviはじめに本書の構成について
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