難しい依頼者と出会った法律家へ
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(4) なぜ現在,難しい依頼者が問題となっているのか パーソナリティ障害の人が昔から存在していた以上,弁護士にとっての難しい依頼者も,昔から存在していたはずです。しかし私の知る限り,これまで難しい依頼者への対応という問題が法曹関係者によって正面から議論されることは,あまりなかったようです。 実証的な調査研究が存在するわけではないのですが,この問題は,最近になってより重大さを増しており,それを正面から取り上げざるを得ない状況になっているように思われます。その背景には何があるのでしょうか。 その理由として私は,近年の弁護士人口の増加が,関連しているのではないかと考えています。 司法制度改革の中で法曹人口の大幅な増加が方針として打ち出されたのは,平成13年のことです(「司法制度改革審議会意見書─21世紀の日本を支える司法制度」)。それまでの年間の司法試験合格者は数百人程度でしたが,これを,年間3000人程度にまで増加することが目標とされました。その結果,弁護士人口は平成13年に1万8246人であったものが,平成26年には3万5113人になったのです(内閣官房法曹養成制度改革推進室「法曹人口調査報告書」平成27年4月20日)。わずか13年の間に弁護士人口が2倍以上に増えたことになります。 短期間でこのように弁護士人口が大幅に増加したことで,弁護士の就業に振舞うことも少なくないでしょう。それもストレスであることは間違いありません。 しかし難しい依頼者との関係では,そのようなストレス以上の強い感情的ストレスが生じます。難しい依頼者との関係のなかで様々な感情をかき立てられた弁護士は,冷静さや余裕の笑みを失い,有能な弁護士として行動できるという感覚を見失ってしまいがちなのです。 難しい依頼者には,弁護士を否が応でも情緒的関係に巻き込み,弁護士自身の感情を強く刺激する,そのような性質があるのです。それは後述するように,パーソナリティ障害または偏ったパーソナリティの人との関係性の特徴から生まれます。6第Ⅰ部 難しい依頼者をどう理解するか

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