状況にも少なからず変化がありました。同報告書によれば,司法修習終了直後の弁護士未登録者の数は平成19年ころから増加し,近年は毎年約550人程度も存在しており,また新規弁護士登録者のうち勤務弁護士は約76%ですが,いわゆる軒ノキ弁が約7%,即独立が約4%もいたとのことです。また弁護士の1人当たりの取扱事件数は減少し,収入・所得も減少傾向にあるとのことです(上述の「法曹人口調査報告書」によれば,申告所得額500〜1000万円未満のものが最多。1000万円以上が減少し,1000万円未満が増加している)。近年の弁護士を取り巻く環境は厳しくなっていると言わざるを得ません。 私は20年以上前に司法修習を終えて弁護士登録をしましたが,当時,修習終了後に就職先が決まっていない同期は,特別な事情がある場合を除いてほとんどいませんでした。確か集合修習の同クラスに一人だけ就職を希望しない修習生がいましたが,彼は修習が終わると放浪の旅に出かけ,世界各地を遍歴して1年間過ごし,帰国後は地元に帰り,ほどなく法律事務所に就職したと聞いています。そんなことができたのは,多少の周り道をしても弁護士として就職できることに微塵も不安がなかったからでしょう。当時,軒弁,即独といった言葉は存在すらしていませんでした。修習を終えて弁護士として生きていくことは,自由業の危うさを必然的にはらむとはいえ,社会・経済的地位が一定程度は保証された道だったのです。 しかし,そんな呑気な時代はもはや終焉を迎えました。弁護士人口の増加に伴い,弁護士の社会・経済的地位が以前に比べて相対的に低下したことは否定できません。ではその結果,依頼者との関係で何が起こったのでしょうか。 私は,弁護士の地位が相対的に低下したことが,弁護士と依頼者との力関係のバランスの変化を帰結し,さらにそのことが,難しい依頼者の増加に関連しているのではないかと思っています。すなわち,弁護士の力が相対的に強く,権威者として無条件の尊敬を受けうるような立場にいた時代には,どんなパーソナリティの依頼者であれ,弁護士に対して従順な態度をとることが多かったと思われます。言葉を変えれば,弁護士と依頼者の役割構造が明確だったのです。しかし弁護士の地位が低下し,依頼者との力関係が前よりも対等に近くなってきた現在,依頼者と弁護士の役割は不7第1章 難しい依頼者とパーソナリティ障害
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