難しい依頼者と出会った法律家へ
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 パーソナリティ障害とは何かについては後に詳しく述べますが,『現代精神医学事典』(弘文堂,2011)によれば,次のように説明されます。 「パーソナリティ障害とは,倫理観や品位といったその人の人格によくない何かがあるということではない。(中略)パーソナリティ障害が意味するのは単に,外界との交流において柔軟性がなく不適応な様式が長年にわたって持続しているということに過ぎない。この不適応な様式は,その人の思考,感情,行動,そして何よりも対人関係に表れる。パーソナリティ障害を持つ人はしばしば,他者との間で満足感を伴う互恵的で意味のある関係を持続的にもつことができない(後略)」 この説明のように,パーソナリティ障害の人は,思考,感情,行動と対人関係について独特のスタイルを持っており,そのスタイルに固執しているため,状況に合わせて柔軟に対応することができません。そのため,対人関係でも相手に合わせつつ,自分の主張もするといった,柔軟な付き合い方ができず,しばしば他者と衝突することになります。 したがって,もし依頼者がパーソナリティ障害(あるいはそれに近いパーソナリティ)だとすれば,法的紛争の解決のために柔軟な判断や行動をすることができないため,弁護士にとって事件の進行が難しくなったり,弁護士との関係性が難しくなったりして,弁護士の感情に苦痛をもたらすことになります。つまり,パーソナリティ障害という概念の中核が他者との関係での難しさであるため,その難しさが弁護士との間でも現れてくるのです。 とすれば逆に,弁護士にとって「難しい依頼者」と感じる人たちがパーソナリティ障害(あるいはそれに近いパーソナリティ)である可能性は,一定程度あると思われます。そして,「難しい依頼者」をどう理解し,どう対応するかを考えるにあたって,パーソナリティ障害の理論をもとに考えていくことが役に立つと思われます。 そこで本書は,「難しい依頼者」がパーソナリティ障害(あるいはそれに9第1章 難しい依頼者とパーソナリティ障害

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