難しい依頼者と出会った法律家へ
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(2) パーソナリティ障害というスティグマにしてはならない スティグマとは,もとはギリシャ語で奴隷や犯罪者の身体に焼き付けられた刻印のことを指しますが,現代では,個人に不名誉や屈辱を引き起こすようなレッテルを指します。 「難しい依頼者」をパーソナリティ障害の理論を用いて理解するにあたって最も避けなければならないことは,パーソナリティ障害が「難しい依頼者」へのスティグマになることです。 パーソナリティ障害は,シュナイダーの「精神病質人格」という概念を起源としています。シュナイダーは精神病質人格を「その人格の異常性を悩みとし,またその異常性によって利益社会が悩むような異常人格である」と定義しました(Schneider,1949)。 「異常人格」というとネガティブな印象がありますが,実はシュナイダーは「異常人格」を「平均から偏っているもの」として定義しており,それ自体は価値的に中立的な概念です。たとえば知能について「極端に優れた知能」を「異常な知能」と表現するようなものです。そこにはネガティブな価値基準は含まれていません。 しかし「精神病質人格」の人が「異常人格」や「個人または社会が悩むもの」と定義づけられたことは,ネガティブな印象を招く結果となりました。 このようなシュナイダーの精神病質人格の概念を出発点としながらも,その後パーソナリティ障害の概念は本書で紹介するような様々な類型へと広がったのですが,やはりネガティブな意味あいで受け取られることが少なくありませんでした。 かつて日本ではパーソナリティ障害を「人格障害」と称していましたが,「人格」には道徳的なニュアンスが含まれるとの理由で,より中立的な言10第Ⅰ部 難しい依頼者をどう理解するか近いパーソナリティ)である場合を想定し,パーソナリティ障害の中から特に法的紛争の中に登場する可能性が高いと思われる6つの類型を取り上げ,その特徴と対応法について論じます。 ただ,これには幾つか注意が必要です。それを次に述べたいと思います。

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