難しい依頼者と出会った法律家へ
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(2) 環境的要因 〜被養育体験 見捨てられ不安が強いことについては,幼いころの養育者との関係が影響していると言われます。 この点について精神力動論からいくつかの説明がなされていますが,たとえば境界性パーソナリティ障害の人は,成長過程で母親(主たる養育者)から精神的に分離して自立することができていないからだと言われます。およそ2,3歳の幼い子どもは,少しずつ母親から離れて自分の興味に従って探索するようになり,母親から分離して行動することを試みます。しかし同時に,まだ母親から離れると不安になる気持ちもあります。この過程で母親が十分に精神的な支えとなり,自立を喜ぶならば,子どもは次第に母親から安心して自立し,自由に世界とかかわることができるようになります。しかしこの時に母親自身が子どもの自立を不安で寂しく思っていると,子ども自身が自立に過度の不安を抱くようになります。 境界性パーソナリティ障害の人は,このように母親からの分離と自立をはかる過程がうまくいかなかったために,いつまでも母親(またはそれに代わる親密な関係の人物)にしがみついていると考えられるのです。 他方で,幼いころに大きなトラウマ,たとえば親との死別や,両親の離婚,親からの無視や拒絶,身体的・性的虐待などがある場合には,青年期われています。境界性パーソナリティ障害の人の家族にうつ病が多いことからも,遺伝的にうつ病に罹患しやすい生物学的特徴を持っている可能性が示唆されています。 うつ病との併合が多いことから,境界性パーソナリティ障害に人が自傷行為や自殺企図などが起こしやすいのは,うつ病の症状であると考えることもできます。 同時に,うつ病に関連する脳内神経物質のセロトニンが,境界性パーソナリティ障害の人の場合はうまく機能していないとも言われています。セロトニンは衝動性を抑える働きをしていることから,境界性パーソナリティ障害の人が衝動的な行動をするのは,セロトニンの機能不全ではないかとも考えられています。45第1章 情緒不安定な当事者(境界性パーソナリティ障害)

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