難しい依頼者と出会った法律家へ
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や成人期に境界性パーソナリティ障害が発生する可能性が高くなると考えられます。 ただ,すべての境界性パーソナリティ障害の人が,虐待されていたり,養育者から情緒的に無視されていたりといった経験をしているわけではなく,一般的な養育を受けている人も多いとも言われています。 つまり,境界性パーソナリティ障害の原因は複雑に絡み合っており,1つの要因だけが影響しているのではなく,様々な形成過程があると考えるべきだといわれています(Gabbard,1994)。46出会い 佐藤弁護士(40代,男性)は,所属弁護士会からの紹介で,M美さん(26歳,女性,アルバイト)が起こした器物損壊事件の示談交渉を受任することになった。 初めての面談の日,母親と一緒に事務所を訪れたM美さんは,清楚な服装に礼儀正しい印象で,佐藤弁護士はあらかじめ聞いていた事件の概要から想像される印象とのギャップに驚いた。母親もまた,しっかりとした常識のある振る舞いだった。 被害者からの告訴によれば,M美さんは元恋人である20代男性の洋介さんの所有する高級外車の車体やガラスに,駐車場においてあった消火器で多数の傷をつけ,200万円の損害を与えたというものだった。激怒した洋介さんがM美さんを告訴し,M美さんは警察や検察庁に呼ばれて在宅の取り調べを受けていた。 M美さんの取り調べにあたった検察官に「被害者と示談ができなければ起訴は避けられない」と言われたが,洋介さんは既に弁護士をつけており,弁護士を通じてしか連絡ができなくなっていた。そこでM美さんの母親が弁護士会に相談して佐藤弁護士を紹介されたのだった。 佐藤弁護士は,清楚なM美さんがそのような事件を起こしたことをいぶかしく思い,理由を尋ねたところ,M美さんは「1年前から洋介第Ⅱ部 パーソナリティ障害の類型と対応法事 例激情にかられたストーカー事件

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