難しい依頼者と出会った法律家へ
43/52

 境界性パーソナリティ障害の人は,衝動性,激しい行動を表すのは親し47さんと付き合っていたのですが,3か月前に洋介さんから別れを切り出されたんです」と話し始めた。洋介さんは中小企業の社長の息子で,裕福なお坊ちゃん育ちの青年だという。大学を卒業して,いずれ家業を継ぐつもりだが,今は別の会社に勤めているという。M美さんは優しくて好青年の洋介さんに,これまで付き合った男性とは違う安らぎを感じ,結婚したいと思って付き合っていた。しかし妊娠したことを洋介さんに告げると,思いがけず冷たい態度で中絶を迫られ,仕方なく中絶し,その後に別れを切り出されたのだと涙ぐんだ。 佐藤弁護士は,M美さんにも同情すべき事情のある事件だと思い,「あなたも大変でしたね。洋介さんとの示談を成立させて,告訴を取り下げてもらうようにしましょう」と伝えると,M美さんは,「ありがとうございます。先生のような弁護士さんに出会えてよかった」と感激したように言った。佐藤弁護士は,「私でよければ,できる限り力になりますよ」と応じた。 佐藤弁護士はさっそく洋介さんへの示談金について,「実際の修理費用が200万円だということで,200万円に加えてさらに慰謝料を請求される可能性がありますが,どの程度なら支払えますか」と尋ねると,M美さんは答えずに母親を見た。母親は,「200万円でも私どもでは,ぎりぎりの金額です……」と困ったような表情だった。M美さんには貯金はないということだった。佐藤弁護士は200万円で示談は難しいと思ったが,まずはそこから交渉を始めるしかないと考えた。第1章 情緒不安定な当事者(境界性パーソナリティ障害)弁護士の困りどころ 初対面のM美さんはとても好印象で,情緒不安定なところや衝動的な様子は見受けられないようです。この段階で,佐藤弁護士にはその後の展開を予測して,対応を考えておくことなど想像すらできないようです。望ましい対応

元のページ  ../index.html#43

このブックを見る