難しい依頼者と出会った法律家へ
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い関係になってからであり,初対面での印象は好ましいことが多いと言われます。気分や考えが両極端に揺れるので,良いときは自他に対してポジティブな感情を抱き,他者にも良い印象を与えます。 しかし,M美さんの被疑事実の行為態様をみれば,M美さんがかなり激しい感情や衝動性を秘めていることがうかがわれます。さすがに佐藤弁護士も行為態様をいぶかしく思い,そんなことをした理由を尋ねていますが,M美さんの説明を聞いて,苦しい事情があったのだろうと納得してしまいました。M美さんの外見的な印象の良さも手伝って,佐藤弁護士はそのように考えてしまったのでしょう。しかし,車体を消火器で傷つけるという行動は,並大抵のことではありません。 ここで注目すべきことは,会ったときのM美さんの印象と,被疑事実にみられるM美さんの激しい行動のギャップでしょう。初対面のときの好印象と,衝動的・感情的な行為態様のギャップは,境界性パーソナリティの人の両極端に揺れ動く心性をよく表しています。佐藤弁護士が最初に感じた「違和感」に着目すれば,好印象の裏側にあるM美さんのパーソナリティへの気づきがあったかもしれません。48示談交渉 佐藤弁護士は洋介さんとの示談交渉を進めるために,洋介さんの弁護士に連絡して面談の約束を取り付けた。面談の日には,弁護士とともに洋介さん本人と洋介さんの父親も現れた。M美さんから聞いていたように,洋介さんは素材のよさそうなブレザーや高級腕時計を身に着け,いかにも裕福な様子だが,どちらかというと大人しく気弱な印象だった。しかし洋介さんの父親は押しが強い人物で,洋介さん名義の外車を実際に購入したのは父親であり,弁護士を頼んだのも父親のようだった。 洋介さんの父親は開口一番,「うちの息子は,彼女にストーカーされていて,かなり怖い思いをしていたようなんです。まったく非常識な人ですよ。示談するのはよいが,もう二度と息子に会わないでもら第Ⅱ部 パーソナリティ障害の類型と対応法

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