難しい依頼者と出会った法律家へ
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50豹 変た。洋介さんの弁護士は,「それでは示談書の中に,二度と洋介さんにストーカー行為をしないという条項を入れるということでお願いします」と話をまとめた。 佐藤弁護士は示談内容について相談するため,M美さんと母親に事務所にきてもらった。この日のM美さんは,色あせたジーンズに,ジャージ素材のパーカーというラフな服装で化粧もしておらず,佐藤弁護士は一瞬,別人と見間違えるほどだった。心なしか母親は不機嫌そうだった。 佐藤弁護士から,洋介さん側との交渉で,当初は300万円といわれた示談金を200万円に下げたこと,そのかわり示談書に洋介さん側の希望する条項として「洋介さんに会いに行かないこと」を入れる必要があると説明した。 示談金額が下がったことでM美さんは,「先生のおかげです。ありがとうございます」と嬉しそうな様子だった。しかし母親はうんざりした表情で,「200万円ですか。この子にはそんなお金はないので,私が払うしかないのはわかっていますが,これまでも自殺未遂で病院に運ばれたり,この子には,迷惑のかけられどおしで……」と愚痴っぽくつぶやいた。するとM美さんは突然立ち上がり,「こんな娘に育てたあんたが悪いんでしょう。だったら産まなければよかったじゃない。あんたのせいで私はまともに生きられないんだから,200万円くらい出しなさいよ」と母親を罵った。佐藤弁護士は突然のM美さんの態度に驚き,体がこわばるのを感じた。しかし,なんとか2人をなだめなければという思いと,示談をまとめたい思いが重なり,母親に対して「お母さんにはご苦労をかけますが,M美さんのためにも示談金を払って告訴を取り下げてもらったほうがよいと思います」と説得するように話しかけた。それ以上2人は言い争うこともなく,母親が200万円を用意することになった。第Ⅱ部 パーソナリティ障害の類型と対応法

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