本書における「難しい依頼者」とは,感情の表し方,思考方法,対人関係における態度に,常識を超えた極端さがあるため,弁護士が困惑するような依頼者のことです。例えば,紛争の相手方への怒りで我を忘れて大声を上げる人,現実味の乏しい「嫌がらせ」にあっていると訴える人,高飛車な態度で弁護士のささいなミスをなじる人,などを思い浮かべてみてください。 「難しい依頼者」の事件では,弁護士は事件遂行の過程で様々な困難に突き当たります。たとえば事実関係の聴取,方針の決定,和解交渉,敗訴に終わった場合の説明,報酬請求など,様々な局面で弁護士業務がスムーズに運ばず,最悪の場合は依頼者から懲戒請求されることもあるでしょう。 このような難しい依頼者について,「あとあと面倒なことになるから,最初から避けたほうが無難だ」と考えてきた方も,読者の中にはおられるでしょう。あるいは「なるべく避けたい」と思いながら,そうと分からずうっかり受任し,結局,関係がこじれて身動きが取れなくなった経験がある方もおられるかもしれません。 しかし「難しい依頼者」を,弁護士は本当に「受任しないのが無難」と避けることができるのでしょうか。また,避けてよいものなのでしょうか。本書では,いずれも答えは“No”だと考えています。「難しい依頼者」を避けることは容易ではないし,そもそも「難しい依頼者」だからと避けることは,弁護士として望ましいことではないというのが,本書のスタンスです。 そもそも「難しい依頼者」かどうか,一見して分かるとは限りません。iはじめに難しい依頼者は避けられないはじめに
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