多くの依頼者は,初めて会う弁護士の前で,常識的で礼儀正しく振る舞います。表面的なレベルではいたって普通の人々です。しかし,いったん受任して事件を進めていくうちに(関係が深まることによって),依頼者の意外な側面─極端に偏った性格特徴─を発見して驚愕するという場合が多いのです。そのため,出会ってから受任に至るまでの段階で,その依頼者が難しい人かどうかを適確に判断することはかなり困難です。 もう1つの問題として,近年の弁護士人口の増加によって,昔のように弁護士が依頼者を選ぶ余裕はない時代が到来しています。とくに「軒弁(ノキベン)」や「即独(ソクドク)」を余儀なくされた若手弁護士は,「冷静で,合理的判断ができて,弁護士費用をきちんと払ってくれそうな筋の良い依頼者でなければ受任しない」などと言っていては食べていけないのではないでしょうか。「難しい依頼者」の事件を引き受け,関係がこじれることなく,依頼者の満足のいく解決を得ることができるなら,弁護士の顧客層はぐっと広がる可能性があります。 しかし何より重要なことは,「難しい依頼者」こそ,弁護士の援助を必要としているということです。彼らの難しさは弁護士だけが感じるものではなく,家族,友人,上司や同僚,隣人など,周りの人が一様に感じている可能性が高いのです。なぜなら,その難しさは彼らのパーソナリティに起因しており,人生を通じて似たパターンが繰り返されているからです。それゆえ彼らの人生は,身近な他者との愛憎のもつれ,対立,別離の繰り返しであり,その一部が法的紛争化して弁護士のもとに来ていると考えられます。しかも弁護士にすら愛想をつかされ,「この弁護士で○人目」と弁護士を渡り歩いていることも少なくありません。 彼らが他者と対立してしまうのは,彼ら自身のパーソナリティに起因しているのですが,しかし,それは彼らが故意で行っていることではありません。むしろ彼ら自身も他者と良い関係でいたいと望んでいるにもかかわらず,様々な心理的要因がそれを妨げていると考えられます。「難しい依iiはじめにもっとも法律家の権利擁護を必要としている人々
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