難しい依頼者と出会った法律家へ
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「パーソナリティの偏り」がある場合が多いのではないかと想定しています。パーソナリティの偏りが極端な場合には,精神医学的に「パーソナリティ障害」と診断される可能性もあります。 言うまでもなく,全ての「難しい依頼者」にパーソナリティの偏りがあると決めつける趣旨ではないし,ましてや「難しい依頼者」がパーソナリティ障害だと断定するつもりは全くありません。 このことは,パーソナリティ障害がかつて「人格障害」という言葉で表され,何か問題のある人格であるという印象を与えたことからも,非常に注意すべき事柄です。「難しい依頼者」が人格的に劣っているという意味で,「パーソナリティの偏り」または「パーソナリティ障害」かもしれないと考えてはならないことは,強くお伝えしたいと思います。 しかしなお,「難しい依頼者」にどう対応すべきか考えるために,パーソナリティ障害という概念を用いて考えることは,とても有用だと思います。なぜなら,ある人がパーソナリティ障害であるとは,その人がパーソナリティの要素である思考,感情,対人関係のパターンにおいて極端な傾向を示し,身近な他者との関係に問題が生じやすいことを意味します。それはまさにある人が,彼の援助者である弁護士との間で問題を生じやすい「難しい依頼者」であることと,重なり合うからです。 このような立場にたって,本書では「難しい依頼者」とパーソナリティ障害とを関連付けて論じています。しかし,そこにパーソナリティ障害の方々をネガティブにとらえたり,敬遠する意図は全くないことを強調しておきたいと思います。 依頼者に限らず,パーソナリティ障害の家族,恋人,友人,同僚がいれば,つき合い方に頭を抱えることになります。そのため「パーソナリティ障害の人とのつきあい方」といった書籍は既に多く出版され,パーソナリティ障害の様々な類型に即した一般的な対応法が論じられていますが,本書はその弁護士への応用編といえます。ivはじめに対応法の仮説を持つことを目標にすること

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