時効理
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第1 本稿の対象⑴ 総 論第1 本稿の対象1)我が国の通説・判例は,時効を実体法上の権利の得喪原因として捉えている(大判明治38年11月25日民録11輯1581頁,大判大正8年7月4日民録25輯1215頁,最判昭和61年3月17日民集40巻2号420頁)。 法制度の解釈は,一般的には,その法的性質を措定して演繹的に,また,その趣旨を理解して帰納的になされることが多い。 しかし,時効については,その法的性質,趣旨のいずれについても議論があり,それが制度全体の理解を困難にしている面がある。一方の理解を他方1 本稿の対象及び構成 本書では,時効,特に消滅時効を取り扱う。 時効制度は,通説・判例に即していえば,「一定の時の経過により権利の得喪等の法的効果を生じさせる制度」である。1)同様に,消滅時効は,「権利の不行使等の状態が一定期間継続する場合に,当該権利の消滅の効果を生じさせる制度」と理解される。 消滅時効の効果を主張するためには,上記のような通説・判例の理解に立ち,要件事実に即して整理すれば,一般に,①対象となる権利について,②権利者が権利を行使することができる時期が到来し(時効の起算点。民法166条),③当該時期から一定の期間が経過し(時効期間。民法167条等),④時効の援用がなされたこと(民法145条)の主張を要する。他方,これに対する抗弁(再抗弁)事由としては,⑤時効中断(更新・完成猶予)・停止事由の発生(民法147条から161条まで),⑥時効利益の放棄の意思表示又は時効完成後の債務者による承認(民法146条等)に大きく分かれる。 時効総論を扱う本稿では,これらを中心に,以下,概観していく。その前提として,時効制度の趣旨等について,議論状況等を実務的な範囲で概説する。2 時効の趣旨等1

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