⑵ 機能・趣旨第1章 時効総論 2)また,時効の法的性質を実体法的に理解する場合には,権利の実体法的な得喪を生じさせる理由を説明する必要が生じる。3)ただ,ある機能を制度の存立基盤そのものである「趣旨」として理解するか,弊害が許容可能な相当性を持つという意味で「正当化可能」と理解するかは,程度問題の面もあると思われる。4)時効の中断の趣旨は時効自体の趣旨と整合的に説明することが適当と思われるが,請求,差押えといった事由が時効中断事由であることを説明するためには,時効自体の趣旨に事実状態の保護や権利不行使への制裁が含まれることを認める方が説明しやすい(さらに,時効中断事由としての「裁判上の請求」と異なり,権利行使の対象としての訴訟物と異なる「裁判上の請求に準じる事由」に係る権利について時効中断効を認める場合には(第3の2⑵ア参照。最大判昭和43年11月13日民集22巻12号2510頁参照),(厳密には権利行使がされていないため)「事実状態の保護」の理解に係る主張に用いる場合もあり,議論が錯綜する理由となっているようにも見える。 ただ,そうした法的性質や趣旨についての議論が,時効の個別の法条に係る判例・学説に影響していることも否定できない。従前の判例・学説の理解のため,また,実務上の主張を行うために,それらの議論状況等について一定の整理をしていることは,実務上有用と思われる。 そこで以下では,議論状況を実務的に理解するための,最低限の整理をしておきたい。 時効制度は,大きくは,真実の権利者や弁済者を証明困難から救済する機能を有すると同時に,権利者でない者や未弁済者等の利益をその事実状態に合わせて保護する機能をも有する。 時効制度の趣旨については,かかる機能をどのように正当化するか,どちらの機能をどの程度重視するかにより,その理解が分かれ得るように思われる。2) 伝統的には,時効制度の趣旨については,①永続する事実状態の保護,②証明困難からの救済,③権利の上に眠る者は保護しない,という多元的な理解がなされてきた。そうした多元的な趣旨理解により,複数の機能があることを正当化しようとしてきたともいえる。 時効が実定法上,上記2つの機能を有することは否定できない。複数の機能を正面から正当化する説明の仕方として,上記伝統的な趣旨理解はなお存続し得ると思われる。3)4)実際,多くの判例がそうした伝統的な考え方に即し2
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