⑶ 沿 革第1章 時効総論 8)なお,沿革についての記載の多くは,原田慶吉『日本民法典の史的素描』(創文社,1954年),星野英一「時効に関する覚書」法学協会雑誌86巻6号,86巻8号,89巻1号,90巻6号,注釈民法⑸及び民法議事速記録の記載に負っている(本書の性質上,細かな出典は省略する。)。金山直樹教授の仏法に関する歴史的研究(判タ543号,551号,558号)も参考とした。比較的入手が容易で,引用の多い文献としては,松久三四彦「時効制度」星野英一ほか『民法講座1民法総則』(有斐閣,1984年)541頁,山本豊「民法一四五条(時効の援用の意味および援用権者の範囲)」広中俊雄=星野英一編『民法典の百年Ⅱ(個別的観察⑴総則編・物権編)』(有斐閣,1998年)257頁があり,各種文献については,差し当たり,金山直樹編『消滅時効法の現状と改正提言』(商事法務,2008年)の脚注が参考になる。石田穣助教授の民法総則に係る著書での論文の引用も,全ては把握しきれない量が挙げられており,網羅的と思われた。時効の中断については,金融法務事情,銀行法務,金融商事判例等が定期的に時効について特集をしており,実務的な内容はそちらの方が詳しい。もちろん,判例の内在的理解という点では各最高裁判例解説が参考になる。9)そのため,ドイツでは時効完成によって実体権は消滅せず,例えば所有目的物がさらに第三者に移転した場合には,再度当該第三者に請求することが可能であるとされる。フランスにおいても,訴権の消滅時効の場合には,時効期間が経過しても債務は自然債務として残り,その後の弁済は非債弁済にはならないとする。述するように,時効制度は,その沿革においても,ローマ法以来の伝統的な制度であって,かつ,様々な曲折を経て日本に伝来した制度であり,この面においても,多様な側面を持ち得るのであって,それゆえ,時効制度の趣旨についても一元的かつ統一的な理解は困難であることを理解した上で,伝統的な趣旨理解を踏まえて運用すれば足りることも多いように想像される。 時効制度の沿革については,実務的な意味で,最低限,以下の事項を理解しておくと,時効についての議論の理解が進みやすいと思われる。8) まず,時効制度は,沿革上,ローマ法まで遡ると理解されている(所有権の取得時効,訴権の消滅時効,役権の時効が別個に存在したとされる。)。 次に,中世の注釈学派及びカノン法において「取得時効」及び「消滅時効」の概念に大別され,また,カノン法においては時効の不道徳な面が着目され,時効を阻止する種々の制度が導入された(催告による中断,援用等)。 日本民法への影響が強いフランス民法とドイツ民法にも時効の規定はあるが,日本民法の規定とは,その内容は完全に同じではない。例えば,ドイツ民法では消滅時効は請求権に対する抗弁権として位置付けられ,9)取得時効は所有権その他の物権の取得原因と位置付けられ,性質が異なるものとして規4
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