時効理
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第1 本稿の対象10)推定時効においては,宣誓と自白だけが反証となる強い推定とされる。定されている(また,不動産についての公信の原則を前提として,取得時効が認められるのは原則として動産のみとされ,日本と比べて取得時効が機能する余地は狭いとされる。)。他方,フランス法では,取得時効と消滅時効を合わせて同じ章で規定されているが,消滅時効は訴権の消滅又は推定時効10)の問題として規定され,実体権の消滅と構成する日本民法の通説とは異なる。 日本の現行民法のうち時効についての多くの規定は旧民法の規定を引き継いでいる(一部は出訴期限規則(明治6年11月5日太政官布告第362号)にも影響されている。)。旧民法は,フランス法の系統に位置するが,時効を(原則として反証を許さない)「法律上の推定」と位置付けた点が独特のものと理解されている(旧民法証拠編89条,90条参照)。 これに対して,現行民法の立案過程では,ローマ法上の沿革(時効は法律上の推定として位置付けられていなかった。)や,理論上の理由(例えば,取得時効において善意悪意で年数を分けることは「法律上の推定」の構成と齟齬がある等)から,旧民法のそうした「法定証拠」としての規定ぶりを変更することが明示的に意識されていた(民法議事速記録(日本学術振興会版。以下同じ。)第4巻148頁以下)。もっとも,そのような時効の法的性質の部分以外については,上記立案過程では,旧民法の規定と実質的に変わらない,と説明されるものが多い(したがって,旧民法が影響を受けたフランス法由来のものが多いと考えられる。)。 そのように,日本の現行民法に係る時効の規定ぶりやその理解が,法制度上,論理必然的なものではないこと(例えば,時効の法的な位置付けは各国の制度により異なっており,また,取得時効と消滅時効を総合した「時効」という制度を観念するかどうかも異なること),そして,日本の時効法は様々な沿革の下に成立しており,それゆえ,ある種の混乱の契機が内在していることは,意識しておいてよいと思われる。 なお,近時,ドイツ法,フランス法を含め,諸外国で時効制度の改正が相次いでいた(例えば,金山直樹編『消滅時効法の現状と改正提言』別冊NBL122号(商事法務,2008年)の第2編「世界の時効法の現状」に掲載の各論文を参照。時効期間の短5

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