時効理
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⑷ 法的性質第1章 時効総論 縮や,起算点の二段階化等が指摘できる。)。これらの改正動向が,日本の債権法改正における時効制度の改正内容にも影響したといえる。11)民法145条が「時効は,当事者が援用しなければ,裁判所がこれによって裁判をすることができない。」と訴訟法的に記載されている点は訴訟法説に有利にも見える。同条は旧民法証拠編96条1項の「判事ハ職権ヲ以テ時効ヨリ生スル請求又ハ抗弁ノ方法ヲ補足スルコトヲ得ス時効ハ其条件ノ成就シタルカ為メ利益ヲ受クル者ヨリ之ヲ援用スルコトヲ要ス」と同じ意味であると立案過程では説明されていた(民法議事速記録第4巻164頁以下)。ただ,時効により実体法上の権利の得喪が生じるという前提をとった上で,民法145条を単に「裁判となった場合には裁判所は援用なくしても職権で判断してはならない」という趣旨にとどまるものと説明することも可能であろう(そして,立案過程においては,本文記載のように,旧民法の「法定証拠」としての規定ぶりを変更することも明示的に意識されていた。)。12)なお,時効制度それ自体の法的性質が実体法上のものか,訴訟法上のものか(訴訟法上のものと理解する場合には,例えば,旧民法のように,権利の得喪の原因は別にあり時効はその法定証拠であるとの理解が考えられる。)の問題と,時効制度それ自体の法的性質が実体法上のものと理解した場合に,「時効の援用」をどのように理解するかの問題は,別個の問題である点に留意されたい。13)本文の大判明治38年11月25日は「消滅時効ニ罹リタル権利ハ当事者カ時効ヲ援用スルニ因リ始メテ消滅スルモノニ非スシテ時効成就ノ時ニ於テ業已ニ消滅セルモノトス民法第百四十五条ノ規定ハ消滅時効ニ付テ之ヲ云ヘハ時効ニ因リ利益ヲ享有スル者カ抗弁方法トシテ之ヲ利用スルニ非サレハ裁判所ハ時効ニ因リテ権利ノ消滅シタル事実ヲ認定シ得サルモノト為シタルニ過キス要スルニ裁判所ハ職権ヲ以テ時効ノ法則ヲ適用スルヲ得サル趣旨ヲ明ニシタル規定ニ外ナラス」とし 通説・判例は,消滅時効・取得時効を共に「実体上の権利の得喪」を生じさせる制度として理解している。 そのような理解は,①民法162条各項が「所有権を取得」と規定し,同法167条各項が債権等の「消滅」と規定している文言や,11)②第1の2⑶「沿革」で見たように法律上の推定構成を意識的に否定した立案過程,③時効を訴訟法上の制度(法定証拠)として捉える見解に特別の実益がないと思われること等から,近時一般的に支持されていると考えられる(実体法説)。 そのように時効を実体法上の制度として捉えた上で,時効には援用を要すると解されていること(民法145条)をどのように説明するかについては,現時点では,以下の状況にあると考えられる。12) 従前の判例や古い学説は,時効期間の満了により権利の得喪は確定的に生じ(確定効果説),援用は訴訟上の攻撃防御方法の提出(訴訟上の行為)と位置付けていた(大判明治38年11月25日民録11輯1581頁,13)大判大正7年7月6日民録24輯6

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