時効理
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第1 本稿の対象1467頁,大判大正8年7月4日民録25輯1215頁)。これに対して,伝統的通説以来,学説の多くは,実体上の法律関係と裁判の内容とで矛盾を生じさせるのは好ましくないとして,14)時効期間の満了によっては時効の効果は直ちに発生せず(不確定効果説),そして,当事者の援用によって初めて発生すべきとの見解が有力に説かれてきた(停止条件構成)。 近時,最判昭和61年3月17日民集40巻2号420頁は「民法167条1項は「債権ハ十年間之ヲ行ハサルニ因リテ消滅ス」と規定しているが,他方,同法145条及び146条は,時効による権利消滅の効果は当事者の意思をも顧慮して生じさせることとしていることが明らかであるから,時効による債権消滅の効果は,時効期間の経過とともに確定的に生ずるものではなく,時効が援用されたときにはじめて確定的に生ずるものと解するのが相当」であると述べており,条文の文言に沿って非常に一般的に述べていることから,最高裁は停止条件構成の不確定効果説に立場を転じたという見解が有力である。15) もっとも,多くの学説はそのような転回を断言してはいないと見られる。1つの理由としては,上記最判昭和61年3月17日は,過去の大審院判例を明示的に変更してはおらずその位置付けにはなお不透明なものが残ること,16)17)時効の援用・時効完成後の時効利益の放棄等(それらの相対効を含む。)についての従前の判例・実務に影響が及び得るものであること等から,18)慎重を期して,消滅時効にかかる権利は時効期間が完了した時には消滅すべきことを明確に述べていた。14)なお,確定効果説に立った場合,時効期間の満了後,時効援用前の法的状態をどのように扱うかが問題となる。実務的には,時効利益の放棄又は時効完成後の承認により処理されるものと思われるが(第3の6参照),実体的に変動している権利について,時効利益の放棄により再度権利変動が生じるとするのは迂遠ではないか,あるいは税法上どのように扱われ得るかといった問題が生じる。15)最判昭和61年3月17日以降に公刊された最高裁判所判例解説には,最高裁は停止条件付不確定効果説に立っている旨,付言しているものが多い。なお,同様に停止条件付不確定効果説に立つものとして,最判平成6年9月8日判時1511号66頁参照。16)同判決の最高裁判例解説は,判例変更を明示していない理由を,過去の大審院判例が厳密な意味では民法145条と同法167条の関係を判決理由として扱っていたとは言えないため,と理由付けている(同最判は小法廷判決である。)。17)同事案における消滅時効の対象が,農地の売買に基づく県知事に対する所有権移転許可申請協力請求権というやや特殊な権利であることも影響している可能性がある。18)当該判例変更により,時効の援用の法的性質が変わり,時効の援用に係る従前の判例等の扱いも変わるおそれがある等の波及効果がないとはいえない。もっとも,従前の判例の立場(確定効果説に立ち,時効の援用を訴訟上の攻撃防御方法の提出として捉える)と,停止条件付不確定効7

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