時効理
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⑸ 民法改正の影響第1章 時効総論 ていることが考えられる。 そのため,現時点での議論状況としては,おそらく最高裁は立場を変えたものと推測されるものの,なお,確実とまでは言い切れない(それゆえ,最高裁が立場を変えたと断言できない)と描写するのが正確なところと思われる。 今次の債権法改正により,民法の時効制度の規定は,外形上,多くが変更された。もっとも,実質的な改正点は基本的に以下のものであり,上述の趣旨・法的性質等に係る大枠は変わっていないといえる。○ 時効中断の効果を「完成猶予」と「更新」に再編成○ 時効中断事由及びその中断の効果の規定を,「裁判上の請求等」「強制執行等」等の大きな類型ごとに条を分けて再編成○ いわゆる「裁判上の催告」に相当する効果の成文化・強制執行の場合についての追加(改正民法147条1項括弧書,148条1項括弧書)○ 差押え,仮差押え及び仮処分以外の強制執行が時効中断事由となることの明確化(改正民法148条)○ 仮差押え及び仮処分の時効中断効を完成猶予効に限定(改正民法149条)○ 和解又は調停が,不出頭又は不調で終わった場合の1か月内訴え提起果説(時効の援用を実体法上の行為として捉える)の立場とで,紛争になった場合に大きな違いは生じないという考え方もあり得るであろう。例えば,両説により援用行為の相手方が裁判所であるか,時効の完成により不利益を受ける者であるかが異なり得るが,どちらにしても裁判上の紛争になった場合には裁判所において時効の援用が主張されることになる(したがって,行為の対象が誰であるかという問題は生じ難い)。また,いずれの説を採ったとしても,時効の効力について民法144条により時効の効力は起算日へと遡及効が生じるので,裁判外で時効を援用するか,裁判内でのみ援用ができるか(それだけ援用の日が繰り下がる可能性が高い)で当事者の保護に差が生じる可能性は大きくない(ただ,停止条件付不確定効果説であると時効期間満了後もまだ権利は消滅していないので,債務の弁済は法律上の原因があることになるが,確定効果説に立つと既に債務は実体法上消滅しているので本来非債弁済となるはずであり,時効完成後の時効利益の放棄・時効完成後の債務承認で実際には処理されるとしても,それらの行為の法的性質が何かが別途問題となり得ることになる)。また,一般論としては,ある行為が実体法上の行為であるか訴訟法上の行為であるかで,民法上の意思表示の規定が適用又は類推適用されるかについて結論が異なり得るものであるが,時効の援用という表示者にとって利益となる行為の性質に鑑みると,意思表示規定の適用が問題となること自体が通常は想定できないであろう。あえて言えば,時効の援用がなされた場合に,その効力が援用権者と時効の完成の不利益を受ける者との間の相対効であるという考え方を採る場合には,そのような考え方は従前の判例の立場の方が説明しやすいであろう(第2の5⑴参照)。時効完成後の時効利益の放棄が他の時効の利益を受ける者には影響しないことについても,従前の判例の立場の方が説明しやすいであろう(第3の6⑵参照)。8

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