第1 本稿の対象25)例えば,ある期間制限が請求権についてのものか,形成権についてのものかで期間制限の意味合いは変わり得る。形成権はその行使の結果として新たに不当利得返還請求権などの請求権が発生するものであるため「形成権と形成権行使後の請求権の扱い」が問題となるが,請求権は,「裁判外での権利行使後の当該請求権のその後の扱い」が問題となる。26)除斥期間を規定するものと主張される規定として,改正前においては,民法126条,193条,195条,426条,564条,566条3項,600条,621条,637条,638条,724条,745条,746条,747条2項,808条1項,812条,866条2項,867条,877条2項,884条,1042条が指摘されている。27)梅謙次郎『民法要義巻之一〔増訂補正版〕』(法政大学,1905年)370頁。28)形成権については除斥期間と解すべきとする見解が有力であるところ,取消権についての民法126条等が「時効によって」と規定している点も影響しているのではないかと思われる。29)伝統的有力説は,権利行使による時効中断が考えられないこと等から,形成権の期間制限(少なくとも長期の期間制限)は除斥期間であると解してきた(ただし,大判大正14年1月28日民集4巻19頁は詐害行為の目的物に対する仮処分が詐害行為取消権の時効を中断する,としている。)。もっとも,最高裁判例が民法典上の形成権について除斥期間として明言した例はないと思われる。むしろ,最高裁は詐害行為取消権の短期の期間制限を消滅時効と明言しているし(最判昭和47年4月13日判時669号63頁),期間制限についての特別の規定が設けられていない形成権については,時効の規定が適用されるとした例が多い(解除権(最判昭和56年6月16日民集35巻4号763頁,最判昭和62年10月8日民集41巻7号1445頁),売買の予約完結権(大判大正10年3月5日民録27輯493頁)など)。また,伝統的有力説は,形成権とその行使の結果としての請求権を合わせて除斥期間にかからしめるべきと主張している。この点,特別の期間制限についての規定ではないが,判例は,解除権については,その行使後の原状回復請求権について,契約解除の時より時効が進行するとしているし(大判大正7年4月13日民録24輯669頁),無権代理行為の追認についても追認後の受領金引渡請求権は追認の時より時効が進行するとしており(大判昭和17年8月6日民集21巻837頁),かかる主張を判例が受け入れるかは未知数といえる。なお,特別法においては,保険契約の告知義務違反による解除権の期間制限(保険法28条4項,55条4項,84条4項)については除斥期間とする見解が保険法学説上有力であり,これに沿った裁判例として大阪高判平成6年12月21日判時1544号119頁がある。30)古い判例には,養子縁組合意に民法126条が適用されるかという文脈で長期の期間制限を「消滅時効」としているものがある(大判明治32年10月3日民録5輯9巻12頁)。ただ,時効期間か除斥期間かが争われたものではなく,判決の射程については即断が難しいであろう。31)学説においては,特別の規定に基づく短期・長期の期間制限について,どちらも除斥期間と解期間」に該当するかどうかや,その効果は個々の規定の解釈によるべきことになる。25)26)法律関係の早期の安定の必要性が高く,それが公益的要請といえるような場合に,当該期間制限を除斥期間と構成しやすいといえるであろう。 ある期間制限が,時効期間を定めたものであるか,除斥期間を定めたものであるかの基準については,一般論としては,法文上で「時効によって」と規定されているかどうかが1つの目安となるとされる。27)もっとも,最終的には期間制限の対象となる権利の性質と規定の実質に従って判断すべきとする見解が有力である。28) この点,形成権に係る期間制限については,少なくとも,長期の期間制限(民法126条,426条等)についてはこれを除斥期間と理解する見解が有力であるが,最高裁判例で直接認められたものはないと思われる。29)30)31)11
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