時効理
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⑵ 権利失効の原則⑶ 抗弁権の永久性第1 本稿の対象37)日本の実務の下では,むしろ,例えば取消権行使が主張された場合の事前の追認の意思表示の有無や,解除権行使が主張された場合の事前の解除権放棄の意思表示の有無といった事実認定の問題となる場面の方が多いのではないか。また,日本民法とドイツ民法とでは形成権行使についての期間制限の期間の長さが異なっていた点も背景にあるのではないか。38)抗弁権の永久性を有力に主張された川島武宜教授は,時効の法的性質について訴訟法説を採用されていた。他方,通説である実体法説を前提とする場合,時効期間の経過により債権等の実体権が消滅するとしても,なお,抗弁として主張することは許されるかという形で問題となるものと考えられる。また,抗弁権の永久性については,例えば,請求側と被請求側とで主張する実体権の期間制限に差がある場合に実益があるとされる(例えば,売主から買主への詐欺により売買がされた場合に,取消権の期間制限は一般には追認をすることができる時から5年であるのに対して,売買代金支払請求権は10年の場合もある。)。今回の債権法改正により,債権の時効期間が原則5年となったことにより,実益が若干減るところがあるかもしれない。39)そうした問題と,「抗弁権」それ自体が時効の対象となる権利であるかとは区別して論じられるべきであろう(第2の1参照)。 時効とは別に,権利を久しく行使しないために相手方がもはや権利を行使しないと信頼すべき正当の事由を有するに至った場合に,信義則違反を根拠として,権利行使が認められないとされる場合がある(解除権について,最判昭和30年11月22日民集9巻12号1781頁。なお,最判昭和40年4月6日民集19巻3号564頁参照)。ドイツの判例・学説上認められている概念であり,日本でも消滅時効にかからないとされる物権的請求権の行使のような場合に適用の実益があるとされる。 もっとも,あくまで信義則という一般則によるものであり,また,時効制度が別途あることを考慮すれば,権利行使をしないことへの信頼が保護に値すると認められる場合は,例外的な場合にとどまると解すべきであろう。37) 「抗弁権の永久性」という考え方は,権利が(請求権という攻撃的な形態で訴訟上現象する場合と異なり)何人かの請求に対抗して現状の維持を主張する,抗弁権という防御的な形態で訴訟上現象する場合には,期間制限に服すべきではない,という考え方である。38)抗弁権の前提となる実体上の権利関係(例えば取消権)について時効期間が完成した場合に,なお抗弁としての主張は可能かどうかという問題について扱うものといえる。39)ドイツやフランスでは学説・判例で承認されており,また,現状の維持を求める点で時効制度にも沿13

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