第2 時効の効果を主張する要件取得者には民法396条の適用はない(前掲・大判昭和15年11月26日)。43)44)もっとも,被担保債権自体の消滅時効を援用可能な「当事者」(同法145条)の範囲が第三取得者にも広がっており,被担保債権の消滅を理由として抵当権登記の抹消を請求できるため,議論の実益はやや乏しくなっているようにも見える。 形成権については,それ自体は「債権」とはいえないが,判例は,「形成権といえども,その消滅時効については,一概に民法167条2項を適用すべきものではなく,各種形成権について,その性質に従つて,消滅時効の期間を定むべきである」として,債権の消滅時効の規定を準用すべき場合があることを認めている(最判昭和36年11月24日民集15巻10号2536頁。白地手形の補充権に係る商事消滅時効の適用の事案。)。45)46)47) また,所有権はその本質上,消滅時効にかからないと解されている。所有権に基づく物権的請求権(大判大正5年6月23日民録22輯1161頁,大判大正11年8月21日民集1巻493頁)や,所有権に基づく登記手続請求権も(大判大正9年8月2日民録26輯1293頁,最判昭和51年11月5日判時842号75頁),同様に,消滅時効にかからないとされている。48)抵当権設定者に対する関係においても,当該抵当権自体が同法167条2項所定の20年の消滅時効にかかるとされる(前掲・最判平成30年2月23日)。43)学説上は,債権が存続する限り担保物権だけが消滅時効にかかることはないと解すべきとして,判例に反対する主張も有力である。なお,抵当権以外の他の担保権に民法396条が類推適用されるかについては確立した見解がないと思われるが,大阪高判昭和52年1月21日判時850号41頁は,仮登記担保権にも民法396条は類推適用される,としている。44)なお,第三取得者には同法397条の適用はないとする判例もある(大判昭和15年8月12日民集19巻1338頁,最判平成24年3月16日民集66巻5号2321頁)。45)ただし,形成権については,これにかかる期間制限が除斥期間か時効期間であるかに議論があることについては前述した。また,形成権については明文の規定で特別の期間制限が定められている場合も多い。46)判例は,商行為に係る契約の解除権について,民法547条を参照して,「債権ノ消滅時効ヨリモ長キ期間ノ不行使ヲ必要トセサル法意ヲ推知スルニ足」りるとし,当該案件の場合,商行為によって生じた債権と同視して5年の時効にかかるとしている(大判大正5年5月10日民録22輯936頁)。判例は,売買の一方の予約に基づく予約完結権(大判大正10年3月5日民録27輯493頁),建物買取請求権についても(最判昭和42年7月20日民集21巻6号1601頁,最判昭和54年9月21日判時945号43頁),同法167条1項が適用されるとしている。47)なお,譲渡担保を設定した債務者による債務の弁済と当該弁済に伴う目的不動産の返還請求権とを合体し,1個の形成権たる受戻権として,これに民法167条2項の規定を適用することはできない,とする判例がある(最判昭和57年1月22日民集36巻1号92頁)。48)所有権等に基づく相隣関係上の権利や共有物分割請求権も同様と理解されている。15
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